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新横浜トンネルの掘削再開へ向け、再発防止策が提言されました。

鉄道・運輸機構の東京支社が入る芝パークビルで「地盤変状検討委員会」が行われた

独立行政法人鉄道・運輸機構(横浜市中区)の東京支社は、工事中の「新横浜トンネル」(新綱島駅(仮称)~新横浜駅(仮称)間、全長3304メートル)の真上で起きた陥没原因を調査する「地盤変状検討委員会」の最終回となる第4回会合をきのう(2020年)8月2日(日)に開き、工事の再開へ向けた再発防止策をまとめ、6月24日に始まった同委員会での議論を終えました。

大学教授ら有識者9人による同委員会がまとめた再発防止策では、すでに掘削を終えている大倉山や菊名7丁目、大曽根といった約2750メートルの区間については、陥没箇所と地質が異なることや掘削の位置が深いことから「陥没の危険性は無いと考えられる」(委員会)とする一方で、掘削時の詳細なデータを使って、土砂の取り込み量などを再度確認することを提言。

2018年5月に大曽根小学校で行われた説明会で公開された「新横浜トンネル」の地質縦断図

鉄道・運輸機構では、すでにデータの確認作業に着手しており、掘削工事が再開するまでには確認作業を終えたい考えです。

また、同委員会は新横浜駅(仮称)まで550メートルを残す未掘削の区間についても、新たなボーリング調査によって詳細な地盤条件を把握するよう求めており、鉄道・運輸機構では今後、最低でも2カ所のボーリング調査を実施する計画。この際、調査場所によっては、環状2号線を規制する可能性もあるとのことです。

陥没後、環状2号線上では127箇所で地盤補強と調査を行っており、すでに9割は終えたという(写真は6月26日、1回目の陥没箇所で)

同委員会からの提言を受けた鉄道・運輸機構は「施工管理に問題があったと考えている。同じようなことを二度と起こさないように対策を講じていきたい」(五十嵐良博工事部長)と話します。

ただ、現時点では工事の再開時期が明確に決まっていないといい、横浜市や地元への説明と道路管理者などとの協議を終えたうえで、「鉄道・運輸機構だけで工事再開を決められるわけではないが、できるだけ早く万全を期して掘削を進めていきたい」(同)といいます。

なお、「地盤変状検討委員会」の陥没原因の調査と提言の最終報告を説明するため、龍岡文夫委員長(東京理科大学嘱託教授・東京大学名誉教授、地盤工学)が行った会見の内容は以下にまとめました。

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「地盤変状検討委員会」龍岡委員長の会見内容

今回の陥没原因について

第4回の会合後にまとめた提言などについて説明する龍岡委員長(8月2日)

今回の陥没は、「加圧泥水式(かあつでいすいしき)シールド工法」によるトンネル掘削において、複合的な要因により、シールドマシン(掘削機)が土砂を過剰に取り込み、空隙(くうげき=すき間)が形成されたことが原因と推定された。

複合的な要因という点は、要因が複数あり、それぞれが絡まっている。そのため、原因究明に時間がかかった。

相対的に規模が大きかった1回目の陥没(6月12日)が発生した箇所(大豆戸町の市営バス港北営業所付近)では、(トンネルの)掘進時に固結した砂の取り込みなどにより、排泥管(はいでいかん)が閉塞(へいそく=ふさがる)傾向となり、掘進停止や低速掘進が発生したことが判明した。

1回目の陥没が起きた直後の復旧作業の様子(6月12日)

ここで言う排泥管とは、シールドマシンの先端は、刃があって回転しているが、その裏が“部屋”になっており、そこに加圧した泥水を送り込んで、掘削した土とともにその泥水を取り出すことになる。泥を取り出す管を排泥管と言う。

この箇所の地質というのは、「第四期更新統」というかなり古い地層で、普通は非常に安定している。

しかし、拘束力が開放されると、容易に流動化しやすい性質を有している。つまり、砂質土(さしつど)が優勢である。砂粒は古いが、お互いに固結していない

加圧泥水式シールド工法は、泥水による圧力で、切羽(きりは=掘削面)の安定を保ち推進していくが、泥水の密度が不十分な状態であったこともあり、切羽地山(じやま)の砂質土が泥水に長時間さらされるとともに、閉塞にともなう圧力流動を受けることにより、砂質土が不安定化した。

その結果、天端(てんば=上部)部より、砂層が流動的に切羽内に流入して空隙が形成され、これが複数のリング(1リングは2メートル程度)にわたって生じたと推定されるということになる。

掘進停止中や低速掘進中に土砂の取り込みがあったことが、委員会の作業によって推定された。停止中などの掘削土量の管理をリアルタイムで連続的に監視していなかった。これは施工上の問題である。

そのため、結果として土砂の過剰な取り込みを確認できず、空隙が形成されているという認識もなかったため、(その隙間を埋めるための)「裏込め注入」も不十分となり、陥没を誘発したと推定される。これが1回目の陥没だった。

2回目の陥没原因について

2回目の陥没(6月30日)は相対的に規模が小さかった。発生した箇所(旧港北警察署付近)で、排泥管の閉塞という困難な状態にはならなかったものの、停止中の切羽内への流入が複数のリングにわたって推定されており、諸要因が複合して陥没を誘発したと推定される。

2回目に起きた陥没箇所での復旧作業の様子(6月30日)

諸要因とは、通常の状態では安定しているが粒子がくっついていないために流動化する可能性があるといった「地層の特徴」や、送泥水密度の管理、裏込め注入(グラウト)管理といったものだ。

1回目の陥没に比べると、2回目は取り込み過ぎた土の量は少なかった。そのため、空隙の形成から陥没まで、より時間がかかったと推定される。(※編注:2回目の陥没地点での掘削は陥没の2カ月前に終えていた)

また、地表面の変位は計測していたが、土砂の取り込みによって、シールドマシンの上部に空隙が生じ、しばらくの間、空隙上部の固い粘性土(土丹層=どたんそう)によって、一時的に保持されたと推定される。

その結果、地表面の変異計測によって、地盤変位の予兆の把握と、それによる裏込め注入量の見直し、補足注入などの早期対応ができなかったものと推定される。

陥没発生のメカニズム

陥没発生のメカニズムを「絵」にして模式的に説明してみたが、地中のことであり、本当にどうだったかは分からないため、これは推定である。

模式図にはきれいに地層が書いてあるが、実際の地層は複雑に変化しており、詳細に把握しきれない。

鉄道・運輸機構と地盤変状検討委員会が公開した陥没発生のメカニズムを示した模式図

(上から図に沿って説明すると)通常の状態ではN値(エヌち=地層の硬さや軟かさを示し、50以上は強固とされる)50以上の安定した層であるが、拘束性を失い、地下水の浸透を受けると、流動性が高くなる上総層砂層(かずさそうさそう)であった。

また、流動化しやすい砂層に対し、泥水密度が不十分な状態であった。

掘削停止中または低速掘進時に、シールドマシン上部の砂層が泥水に長時間さらされるとともに、これは作業の都合でそうせざるを得ないが、閉塞にともなう圧力変動を受けることにより不安定化し、天端(てんば)部より砂層が流動的に切羽内に流入した。

これにより、シールドマシンの上部に空隙が発生した。

シールド工法では、セグメントと地山との空隙に裏込め注入が行われるが、この絵にあるように、シールドの鉄の“筒”より内側の直径のセグメントを作るため、どうしても空隙がある。そこに裏込め注入をするわけだが、この区間では、空隙を埋めるまでの充填は行わなかった。

2番目の絵だが、シールドマシンの停止中または低速掘進にともない、一部の区間において、天端の地山が崩落して取り込み過ぎが発生したことにより、空隙が連続的に形成された。

これにより、砂層上部の土丹(どたん)層は支持を失った。これは全部が砂というわけではなく、土丹というのは粘性土を含んでいて、堅くて安定しているが、薄い層である。

それが上からの土圧(どあつ)に耐えられなくなって、崩落した。

(3番目の絵)さらに、それが崩落すると、さらに上部の層、これは粘土層だが、沖積(ちゅうせき)層という柔らかい層で、一番上は道路を作る時の舗装などの構造物を含んだ埋め立ての層だ。これも時間の経過とともに崩落し、シールドマシン通過後、ある程度の時間が経過した後に道路陥没が発生した。

(これらの陥没のメカニズムは)大枠は確かだと思っているが、実際に見ることができないため、これは推定である。

再発防止策について

地盤変状検討委員会は6月24日、7月7日、7月24日、8月2日の計4回にわたって議論を行い、陥没原因を究明するとともに、再発防止などの提言をまとめた(写真は6月24日)

再発防止策は、これまで話した崩落の原因に基づき、再発を防止するためにどうすべきかを、(1)掘削が完了済みの区間、(2)今後掘削する区間について、それぞれの対応を詳細に検討した。

(1)掘削が完了済み区間の対応について

掘削済みの箇所のうち、環状2号線の直下については、すでに探査ボーリングおよび、(地盤を安定させる)充填注入を全体にわたって行っている。

その他の箇所は、今回陥没が起きたような地層ではなく、すでに掘削を終えたもっと深い所という意味だが、現段階では「地盤変動監視委員会」のより詳細な計測でも地表面と地中の変位は出ていない。

地盤変動監視委員会は、「新横浜トンネル」と「綱島トンネル」などのすべての工事で、地盤が沈下していないかを議論してきた委員会だ。

※編注:「相鉄・東急直通線地盤変動監視委員会」は2012年12月に設立され、龍岡文夫委員長ら有識者6人が年に2回ペースで会合を開き、「相鉄・東急直通線」のトンネル掘削における地盤変動の状況などを定期的に監視している)

その委員会の詳細な記録でも、地表面と地中の変位は出ていないため、陥没の危険性は無いと考えられるが、それでも、掘削が終了したすべての区間において、委員会で審議された手法を用いて、改めて過去の掘削データを再度確認中である。

掘削データの見直しにあたっては、取り込み過ぎが推定される場合には、調査・確認のうえ、必要に応じてトンネル坑内より再充填を実施する。

(2)今後掘削する区間の対応について

空隙を生じさせない再発防止策を徹底するということになる。

これから工事を行う先の部分については、先行して追加ボーリング調査の実施による詳細な地盤条件の把握する。

そして、切羽土圧・泥水性状の適切な管理や、土砂の過剰な取り込みの有無のリアルタイムで連続的な監視、裏込め注入の量・圧の適切な管理を行う。

また、土砂の取り込み過ぎが疑われる箇所が認められれば、トンネル内から速やかに再充填を実施する。

実際にこのような事故(陥没)はあるにはあるが、数が少なくて、経験として不十分なところがあった。今回の事故をかなり詳細に検討して、その結果に基づいて、今後掘削する区間の対応を厳密に行う。詳細な方法はかなり膨大なものだが、それを審議して決めた。

(8月2日の会見内容は以上)

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【関連記事】

連続陥没は新横浜トンネルが原因、「環状2号」で再発防止へ地盤補強も(2020年7月27日、前回の「地盤変状検討委員会」記事)

<環状2号線の陥没>原因究明まで「新横浜トンネル」の掘削工事を停止(2020年6月25日、第1回「地盤変状検討委員会」の記事)

【参考リンク】

新横浜トンネル工事の進捗状況(鉄道・運輸機構、新横浜駅まで約550メートルを残して工事位停止中)