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【レポート】通勤列車の窮屈さをあまり感じさせない車内空間は魅力です。

2023年「お盆」の3連休に入る直前の今週8月10日(木)から平日夜の東急東横線で始まった座席指定サービス「Qシート(Q SEAT)」。渋谷駅から日吉や綱島、菊名などの各駅へ座って帰宅できる指定席車両に乗車してみました。

東横線の電車4本(10両編成)に各2両ずつ連結された赤いカラーの「Qシート」車両(8月10日、日吉駅)

指定席として使う際は2人掛けの「クロスシート」になる。なお、リクライニングの機能は無い(8月8日、試運転公開時に元住吉車庫で)

Qシートは東横線を走る一部の「急行」2両だけ連結(渋谷寄りの4・5号車)された座席指定の車両で、平日の渋谷駅を19時35分から21時35分の間に出発する「元町・中華街行」の5本(渋谷19:35/20:05/20:35/21:05/21:35発の急行)に設定。

赤色に塗られた外観が特徴のQシート車両は、普段から東横線を走る電車4編成につながれているため、一般の車両として新横浜線や相鉄線、東京メトロ線などにも走っていますが、座席指定車両として使う時以外には別料金は不要です。

通常は窓に背を向けて座る「ロングシート」となっており、座席指定となる時間帯は2人掛けの「クロスシート」に変わります。

通常の列車に使う際は窓に背を向ける「ロングシート」とし、東横線以外の他社線にも乗り入れている(8月8日、試運転公開時)

乗務員がボタン操作することで「クロスシート」にも「ロングシート」にも変えられる(8月8日、試運転公開時)

車両の端にある優先席部分は回転しないため、通常時も指定席時も同じ座席。ひじ掛け部分に設置されたコンセントはいつでも使える。また、Qシート用のWiFiも使用可能(8月8日、試運転公開時)

座席指定の車両に乗る場合は、乗車券や定期券のほかに1乗車あたり500円(小児同額)が求められ、乗車当日にインターネットの「Qシートチケットレスサービス」で予約するか、急行停車駅の窓口(現金のみ)で事前に指定席券の購入が必要です。

満員の通勤車両と比べると“異空間”

渋谷駅では昼間から「Qシート」のPR放送が幾度も流され、誤って乗車しないように4・5号車付近には多数の係員が配置されていた(8月10日)

「Qシートチケットレスサービス」では乗車当日の朝5時から各列車の指定券を発売する(8月10日)

「Qシートチケットレスサービス」では好きな座席の場所を選べる。場所によっては車窓があまり見えない席も。またベビーカーなどを持ち込む場合は、目の前に多目的スペースがある「1E~3E」を推奨している(8月10日)

Qシート運行の初日となった8月10日(木)は、“一番列車”となる19時35分発の「193号」が指定券の発売から1時間も経たないうちに満席となりましたが、「お盆」の直前で休暇に入っている通勤者も目立つためか他の4本の席には余裕が見られました。

指定券の販売は、乗車当日の朝5時以降に予約サイト上で乗車区間と列車を選んで購入する形をとっており、スマートフォンなどで購入済みの画面を提示して乗車します。

乗車時は出入口前に立つ係員にスマートフォンの予約画面を見せて乗車する(8月10日、渋谷駅)

指定券を東急電鉄の各駅にある自動券売機では販売せず、改札窓口でのみ取り扱うあたりに、インターネットを通じた購入を促したい意図を感じさせられます。購入サイトを通じて氏名やクレジットカード番号といった個人情報を預けての乗車となるためか、乗車時にスマートフォン画面を一瞬チェックするのみで車内では指定券の確認はありませんでした。

記念すべき“Qシート一番列車”を示す案内表示装置(発車標)を撮影しようと多数の人が集まっていたが、普段と何も変わらない「急行 元町・中華街」の表示しか見られなかった。なお、停車駅の少ない特急や通勤特急ではなく、あえて停車駅の多い「急行」にQシートを連結したのは乗車機会を増やしたい思いがあるという(8月10日、渋谷駅)

“Qシート一番列車”となる19時35分発の急行「元町・中華街行」にも多数のカメラが向けられたが、4・5号車以外は普段と何も変わらない東急電鉄の車両。(8月10日、渋谷駅)

満席となった19時35分発の一番列車は、“記念乗車”を目的としたとみられる乗客が大半を占め、ほぼ全員が車内外を撮影する落ち着かない雰囲気でしたが、それでも1車両45席に限定された車内は静かな環境

通常は1車両あたりの定員が最大150人超(うち座席は54席)に設定されているなか、Qシートの場合は最大で45人しか乗車できないため、車内が人で埋まる窮屈さはありません。

Qシート以外の車両は一般的な設備の車内。立つ客も含めて定員は最大で150人超(8月8日、試運転公開時)

Qシートの車内は指定席時には最大でも定員は座席数と同じ45人。指定席が全部埋まっていない列車は快適さが増す(8月10日)

また、車両の出入口は渋谷寄りの1カ所に限定し、他のドアは開閉するものの幕で出入りができないようにしており、各駅での乗降による慌ただしさを感じさせないのも魅力といえます。

Qシートでは渋谷寄りのドア1カ所を除いては幕で出入りができないよう制限される。前方の通常車両のように車内への出入りはあまり見られない(8月10日、日吉駅)

貫通路のドアまでぎっしり人で埋まる前方の一般車両と比べ、手前のQシート車両は満席でも空間に余裕がある(8月10日)

Qシートの前後につながれた通常の車両がぎっしり帰宅客で埋まっているのを見ると、こちらはどこか異空間のようで、東横線の“通勤列車”に乗って家に帰る途中であることを忘れてしまいそう。

渋谷駅から日吉駅までの普通運賃(250円)で見ると、3倍の金額(運賃にプラス500円の計750円)を支払って乗車していることになりますが、仕事で疲れた際などには、日吉や綱島、菊名までの距離であっても金額以上の価値を見出せるのではないでしょうか。

他社線へ乗り入れ、現時点では未検討

Qシートの2人掛けの座席が並ぶ車内は、どこか旅気分にも浸れる雰囲気で、日常の移動時にも使いたいところですが、現時点では平日夜の限られた時間帯のみの運行となっています。

昼間や休日にもQシートとして走るようになれば旅の気分も楽しめそうだが、現時点では指定席として運行される平日の19時から21時台のみクロスシートとして使われており、それ以外はロングシートの車両となる(8月8日、試運転公開時)

東横線と一体的に運営されている「みなとみらい線」へは、横浜駅より先の区間で指定席としない通常列車の形で乗り入れていますが、東急電鉄によると現時点で東京メトロ線や都営三田線などで運行する計画は無いといい、Qシート車両だけで運行する全車指定席のような列車も今は考えていないとのことです。

Qシートとして元町・中華街駅まで走った列車は、3分ほどでクロスシート状態のまま折り返し、急行「渋谷行」として運行される。Qシート車両にも無料で乗れるが客が自主的に座席を転換しなければならず、立ち客も多いのであまり快適とはいえない(8月10日)

一般の「急行」として渋谷駅に着いたQシート車両は、座席の向きがばらばらになっているため、折り返し時間の3分ほどで係員らが座席の向きを揃えていた(8月10日)

Qシートとして運行する列車でも横浜駅より先の「みなとみらい線」区間では一般車両として運行されるため、出入りを制限していたドア部分の幕を片づける作業を実施(8月10日)

Qシートを連結した急行が停車する各駅では駅係員が多く配置されていた(8月10日、菊名駅)

東急電鉄では、目黒線に続いて今年3月から東横線や新横浜線でも運転士だけの「ワンマン運転」を始めて業務の効率化を進めていますが、Qシート車両を運行するには指定券をチェックするなどの役割を担う“車掌”的な乗務員が別に複数必要。

駅での案内や短時間での座席転換などにも手間がかかるため、運行初日は各駅や車内に多数の係員が配置されており、1列車あたり最大で4万5000円(1席500円×90席※渋谷→武蔵小杉、武蔵小杉→横浜など1座席を“2回転”できる可能性を除いた数)という“増収”効果以上の経費を要しているようにも見えました。

一方、東急電鉄が中期事業戦略の一つに掲げる「都市交通における快適性の向上」という目標達成には、Qシート車両の投入は切り札となりうる存在です。

今後、東横線沿線の鉄道利用者向けサービスとして定着し、新たな通勤スタイルの枠を超えて発展していくことに期待したいところです。

)この記事は「新横浜新聞~しんよこ新聞」「横浜日吉新聞」の一部共通記事です

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【参考リンク】

有料座席指定サービス「Qシート」の案内ページ(東急電鉄)

東急東横線の有料座席指定サービス「Qシート」予約ページ(要会員登録)