【ラグビーワールドカップ新横浜レポート第1回】世界一を決める戦いが港北区内で始まりました。今月(2019年)9月21日(土)と22日(日)に日産スタジアム(横浜国際総合競技場)で試合が行われた「ラグビーワールドカップ2019」。新横浜や小机がまるで“お祭り”のような空間に変化していたという2日間の様子を、港北区在住のライター・田山勇一氏が区民目線でレポートします。
ラグビーを“肴”に交流楽しむ「巨大な祭り」
ラグビー界の頂点を決めるワールドカップ(W杯)が新横浜・小机にやってきた。
港北区内でも「4年に一度じゃない。一生に一度だ」などとのキャッチコピーで宣伝されてきたラグビーW杯は、ラグビーの世界一を決める大会ではあるけれど、世界の20地域を中心に外国人観戦客が開催国に詰めかけ、ラグビーというスポーツを“肴”にビールを呑んで騒ぐ「お祭り」のようなものかもしれない。
日産スタジアム(横浜国際総合競技場)で試合が行われた9月21日(土)と22日(日)の新横浜と小机の街を見ていてそんな思いがした。
試合の5時間も前だというのに、東横線の電車内から海外からのラグビーファンが目立ち、菊名駅から乗ったJR横浜線ではさらに増える。帰路の道や横浜線内では、勝利に酔った勢いで国歌やラグビーアンセムと呼ばれる国歌に代わる歌を合唱する人々も。
新横浜駅の改札口を出ると、駅構内(交通広場)には「YOKOHAMA」と大きく書かれたラグビーの装飾が埋め尽くし、多くの国内外のファンが感嘆の声を上げながらが立ち止まって記念撮影。小机駅では小机城にちなんで甲冑(かっちゅう)姿の人や獅子舞が観戦者を出迎え、賑やかだ。
岸根寄りにある新横浜駅前「西広場」では、ステージイベント「横浜ラグビーフェスタ」が催され、これまでのものより小規模ながら、書道や剣道コーナーといったテント前では、防具を付けたり、竹刀を振り下ろしたりして海外からの客が笑顔を見せる。
歩道橋「ヴィスタウオーク」や新横浜の街では、どこから現れたのか外国人のタオルマフラー売りが複数いて、スタジアムに近づくと日本人らしきフェイスペインティング屋も(いずれも許可を受けているようには見えないが……)。
ヴィスタウォーク下では、新横浜“名物”といえる客引きも立っているが、神出鬼没なタオル屋の勢いに圧され、海外客に日本語があまり通じないせいもあるのか、成果に乏しいようだった。
海外客は3~4割ほどだが、とにかく目立つ
目視での計測に過ぎないが、2日間とも海外からの観戦客は3割超。多くても4割はいかないほどなのに、ラグビーファンだけに身体も声も大きい人が多く、ほとんどが代表ユニフォームを着ていたり、仮装していたりするので目立つ。
彼らが特に好んで集まっていたのがセントラルアベニュー(宮内新横浜線)沿いの英国風パブ「HUB(ハブ)」や、F・マリノス通りと新横浜中央通りの交差点に位置する立ち飲み風居酒屋「横浜ハイボール」。
店内は立つ場所すらない状態で、入れなかった人は店外周辺の歩道にあふれ出して飲んでいる。
対戦するチームの応援者も含め、不特定多数のラグビーファンと交流するためには、“立ち飲み”というスタイルが必須な様子。店内や周辺に日本人客を見かけることはほとんどなかった。

訪日ラグビーファンはいたるところで明るく目立つ
彼らはやたら飲んでいるので、少し引いてしまいそうになるが、近くで見ていると、単にラグビーとビールが好きなガタイがいい陽気な人々、と言えなくもない。警察官も警備員も日本人観戦客も、どこかもの珍しそうに、でも温かい目で見守っている。
無数の大型イベントが行われてきた新横浜・小机だが、これほどまでの外国人が押し寄せた街の姿は、2002年のサッカーW杯の試合時以来かもしれない。大げさに言えば、この2日間は、新横浜から小机の一帯が異空間になってしまったようにさえ感じられた。
初日は世界が注目するにふさわしい一戦
9月21日(土)18時45分、日産スタジアムでの開幕戦となったカードは、ニュージーランド代表「オールブラックス」と、南アフリカ代表「スプリングボクス」。
世界のラグビーファンから見たら、事実上の開幕戦にふさわしく、頂上決戦とも呼べるような一戦だ。
同日時点での世界ランキングは2位と4位だが、過去8回しか行われていないワールドカップで、ニュージーランドは3度、南アフリカは2度優勝している両国が対戦する。
そのためか、予選リーグなのに、日産スタジアムの試合では、決勝戦並みにチケットが取りづらかった。日本の地上波でも生中継が行われ、ラグビーが盛んな国や地域でも、もちろん中継するようで、西ゲート橋付近には多数の海外メディアの姿がみられた。
ただ、満席なら7万2327人の観客が入るはずの日産スタジアムで、この日の観衆は6万3649人。国際大会なので関係者席が多いように見えたが、2階の記者席近くで1ブロックほとんどが空いていたりする。そのせいか、翌日のアイルランド対スコットランド戦のほうが観衆の数は82人多かった。
両巨頭の対戦ながら、現在2連覇中で“世界最強”と名高いオールブラックスのファンが多く、南アフリカは日本からの距離の遠さもあってファン数で劣勢。観客は日本人が6~7割を占めているはずだが、「ゴォ、ブラックス」とか「ゴォ、ボクス」などと大きな声を出して応援しているのは海外客ばかり。
周囲にいる日本人の静かさに業を煮やしたのか、南アフリカの海外ファンが思わず「ミナミアフリカ!」と叫んで、笑いが起こる。日本人にとってはホームグラウンドなのに、海外のスタジアムに紛れ込んでしまった感がある。
試合は、南アフリカが終始リードを許している展開。後半19分には難易度の高い「ドロップゴール」(ボールを一度ワンバウンドさせてから蹴って、ゴールポストを通過させる)を決めて追い上げを図ったものの、1トライに抑え込まれてニュージーランドに23対13で敗戦。
試合終了後は、オールブラックスがゴール裏の客席前に整列していきなりお辞儀を始めた。
さすが世界を代表するチームは日本のプロ野球みたいなことをするのかと驚きを感じたが、これは日本だけでの特別な行動だったと、各スポーツ新聞が報じている。試合前のパフォーマンス「ハカ」といい、客席へのあいさつといい、試合前後も最強だ。
もし日本が予選リーグを突破したら、当たってしまう可能性が高いが、今は異世界の存在にしか見えず、現実感がない。
日本代表と当たる2チームが雨中対決
2日目となる9月22日(日)は16時45分からアイルランド対スコットランドの試合。14時ごろまでは晴れていたが、試合開始直後から天気予報通り雨となった。
ちなみに、日産スタジアムは、1階席前方の18列目までは屋根がないので、雨が降れば確実に濡れる。風が吹けば1階の20列目前後まで、2階席の前方も風雨に当たることになる。傘は禁止なので、そうした席を指定されていて雨予報なら、雨合羽の持参は必須だ。
きのうの南アフリカ代表も緑系のユニフォームだったが、今日のアイルランドも緑。JR横浜線の車内も新横浜や小机の街も、スタンドも緑色の人がとにかく目立つ。
対するスコットランドは、伝統衣装のスカート「キルト」を着用した男性の姿は目をひくが、それほど数は多くない。
アイルランド代表チームは、アイルランド共和国と英国領の北アイルランドで構成。かつて戦火さえ交えた関係だが、ラグビーチームはアイルランド島全体でワンチームとなっている。
スコットランドは独立国家ではなく、英国の一部といえるが、国としての独立意識は強い。「スコットランドには、自国に誇りを持っていらっしゃる方が沢山います。くれぐれもイギリス人と呼んだりしないようにしましょう」と日本スコットランド交流協会が公式サイトで呼び掛けている。伝統衣装を着用して日本までラグビーの応援へ来ているところを見ると、腑に落ちる。
両チームとも日本と同じ「グループリーグA」に入っているので、“敵情視察”のような感覚で試合を観てしまうが、9月22日現在の世界ランキングでは、なんとアイルランドは1位。スコットランドは同7位で、その差通り試合は27対3でアイルランドが圧勝。スコットランドは幾度チャンスを作っても、すべて跳ね返されてしまった。
相手に1トライさえも許さなかったアイルランドみたいなチームに、世界ランキング10位の日本が勝てる見込みはないのではないかと落胆させられ、逆にスコットランドの負けっぷりを見て、もしかしたら日本が勝てるチャンスはあるかも、と淡い期待を持った。
スコットランドは10月13日(日)に再び日産スタジアムに登場し、今度は日本と戦うことになる。
試合終了後も降り続く雨。海外からやってくるラグビーファンは、ビールを片手に無数の人と握手をしなければならないためか、何も持たない手ぶらの人が目立つ。雨に濡れながらも、小机駅近くでは試合後の“反省会”を行っている人々も見かけた。
ラグビーW杯はまだ始まったばかり。残り5試合を経るなかで、11月2日に決勝戦が行われる頃には、こんな光景にも慣れてしまうのかもしれない。(田山勇一)
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・<レポート>日吉・綱島からアクセス良好、熱狂のラグビーW杯「ファンゾーン」(横浜日吉新聞、2019年9月24日、みなとみらいにあるファンゾーンについて)
【参考リンク】