【ラグビーワールドカップ新横浜レポート第2回】普段の日産スタジアムとはこれだけ違うのか――。今月(2019年)9月21日(土)と22日(日)に日産スタジアム(横浜国際総合競技場)で試合が行われた「ラグビーワールドカップ2019」。国際試合ならではの変化に驚かされたというスタジアム内と周辺の様子について、港北区在住のライター・田山勇一氏が区民目線でレポートします。
海外客には「新横浜」も「横浜」も同じ?
今回のラグビーW杯では、決勝戦など7試合が予定され、「メイン会場」といえる日産スタジアム(横浜国際総合競技場)。Jリーグやサッカーの国際試合ではおなじみのスタジアムだが、競技主催者が変わると何かと変化するようだ。
大会公式スポンサー以外の企業名は一切排除されるため、「日産」という名は使えず、横浜国際総合競技場という港北区民には何となく馴染み薄い名が公式名称となっている。横浜以外の人に「日産(NISSAN)」と言っても場所が分からないので、これは仕方がない面はある。
でも、地図上の「Yokohama Stadium」という部分だけ見てしまい、関内の横浜スタジアムへ誤って行ってしまった海外客がそれなりにいた、と関係者の話を又聞きした。
横浜の名誉のために言えば、ラグビーW杯の横浜公式ガイドブック英語版の地図には、「Yokohama Stadium for baseball」と書き、日産スタジアムは「Int’l(国際)Stadium Yokohama」と表記してきちんと分けている。
ただ、パブリックビューイングが行われる「ファンゾーン」は、横浜スタジアムに近い中心部のみなとみらいに置かれており、新横浜は中心部の地図には入らず別途拡大する形で表示されていて、若干分かりづらい面はある。
そもそも、今回の出場国(地域)で「baseball」に理解があるのはアメリカやカナダ、オーストラリアくらいで、「Stadium」と書かれていれば、フットボール場だと思うのかもしれない。
この機会に正式名を「新横浜国際競技場」に変えるべきではないか――
そんな主張をしたいがために、冒頭から又聞きの話を長々と引っ張ってしまったが、新横浜駅と小机駅の特設案内所や街で活動するブルーの服を着たボランティアスタッフに、海外客が道を訪ねているシーンを無数に見かけたので、まずは日産スタジアムの正式名から分かりやすくしておくことも大事なのではないだろうか。
垣間見える国際大会ならではの自己責任
不案内と言えば、ラグビーW杯用に“カスタマイズ”された日産スタジアムの入場時にも困惑させられた。
日産スタジアムの試合では、チケットに「W1」などとゲート番号が記載され、これは「西ゲート」へ行けという指示。もし、W1のチケットで「東ゲート」へ行ってしまうと追い返されることになる(手荷物検査の係員がチケットをきちんと目視でチェックしていればの話だが)。
Jリーグの試合時のようにスタジアムの外周を移動することができず、外周道路は封鎖されている。東ゲート橋自体が封鎖されて「制限区域」となっているので、歩く被害は幾分か少なくて済むが、移動ルートは少しわかりづらい。
「W」の記号があれば小机駅が近いとか、「E(東ゲート)」や「S(南ゲート)」の記号ならは新横浜駅を使うと便利ですよとか、細かな案内があっても良いと思うのだが、そこは国際大会。持ち込みなどの禁止事項はやたらと強調されているが、観戦時は自己責任ということか、観戦客への細かな案内はほとんどなかった。
「飲食物」の持ち込みには警戒姿勢
そしてスタジアム内も、どこかアバウト感があふれている。
入場時のセキュリティチェックでは、1日目は鞄の中をきっちり見る気配はほとんど感じられず、2日目は大して入場者も多くないのに金属探知機でのスキャンを見逃し。両日とも強調していたのが「飲食物はないですよね」の問い掛け。筆者は両日とも異なるゲートから入っており、それぞれ別の事業者がセキュリティを担当していた。
昨年(2018年)11月に日産スタジアムで行われたニュージーランド代表対オーストラリア代表戦時に、人がさばけず、丁寧なセキュリティーチェックを途中でやめてしまったことの反省か、それともW杯本番ではこういうカルチャーなのか。
なお、ラグビーW杯という重要な試合の観戦客だけあって、2日間とも3時間前から1時間前までには多くの客が入場しており、短時間に集中していた様子は見られなかった。
(※)2019年10月10日追記:他の試合会場で、何人かに一人か二人、あえて金属探知機でのチェックを行っていないケースがあった。もしかすると、混雑対策で全員に必ずチェックを行わない方針なのかもしれない。
主催者が考える「多種多様な飲食コーナー」
そしてスタジアム内の飲食物。公式観戦案内には「スタジアムでは多種多様な飲食コーナーやエンターテインメントが用意されており……」などと記載されている。
ただ、スタジアム内で売っていたのは、「ワールドワイドパートナー」だという最高位の大会スポンサーであるハイネケン社(本社:オランダ)のビールと、「トーナメントサプライヤー」という一番下のカテゴリの大会スポンサーであるサントリーによるソフトドリンクが5種類ほど。
食べ物は、食品関係の公式スポンサーがいないせいか、ハンバーガーやホットドッグ、焼きそば、たこ焼き、唐揚げ、ポテトフライの類(たぐい)が中心で、盆踊りの夜店風ラインナップだ。
Jリーグ開催時にラーメンやうどん、どんぶりなどを提供する店舗は、その痕跡を隠すかのように看板などが取り外され(そもそも多数の店がある5階フロアの多くを封鎖)、「FOOD」とか「BAR」とか味気のない統一表示の店に変わり、しかもビール以外は売り切れ品が目立っていた。
東ゲート広場と南ゲート寄りに幾つかのフードカーは出ているが、来場者が多いために統一的なメニュー提供を求められているのか、Jリーグ開催時のように、多彩な商品はない。当然、弁当などどこにも見当たらない。
珍しかったのは、東ゲート前広場の一部店舗で、オーストラリアで人気だというFour’N Twenty(フォーン・トゥエンティ)ブランドの「ミートパイ」(1個700円)を扱っていたことくらい。
これが「多種多様な飲食コーナー」であるとW杯の主催者であるワールドラグビー(本部:アイルランド)は考えているようだが、このあたりは、プロ野球やJリーグ観戦時の飲食環境に慣らされた日本人との感覚の相違なのだろううか。
海外観戦客がほとんど食べ物を買わず、ただひたすらハイネケンを購入して飲み続けているのを見ると、日本人のようにスタジアム内で何かを食べるというカルチャーがもともと少ないのか、と思ったりもする。
【追伸と朗報】
この原稿を書き終えた9月23日午後、主催者からチケット購入者宛てにメールで次のような案内がいきなり届いた。「一部試合会場内の食品販売店舗において、商品が売切れとなるなど、ご来場者の需要にお応えできない状況が発生していることから、会場を訪れる皆様に、より快適な観戦環境を提供するため、持込禁止物の内、食品についての規制を緩和することといたしました」。一転してスタジアム内への「食物」の持ち込み禁止を解禁するとの内容のメールで、以降の全ての試合が対象だという。ただし、飲料はこれまで通り持ち込み禁止とのこと。
新横浜や小机で食事後に観戦が無難
そんなスタジアム内での“主食”であるハイネケンは、実勢価格1缶230円ほどの「350ミリリットル缶」を紙コップに移して1杯700円で売られていた。
日本の野球場やサッカースタジアム内のように生ビールサーバーといった気の利いたものはついぞ見なかったが、価格水準はそれらと同様である。なお、500ミリリットルのカップなら1杯1000円と少しお得だが、缶から注いでいることに変わりはない。
公式スポンサーであるハイネケン以外のビールは当然なく、他のアルコールは、ハイネケン社製の「ストロングボウシードル」(スパークリング酒)と、サントリー製とみられるハイボール、チューハイ(各600円)が確認できた。こちらも「ストロングゼロ」とか「ほろよい・もも」といったコンビニなどでおなじみの缶製品を紙コップに移して提供されている。
強く言えることは、新横浜や小机で食事をしてから日産スタジアムへ行ったほうがいい、ということ。そして、ビールの飲めない人や子どもにとっては、残念ながら“多種多様な飲食”の楽しみは期待できそうにないという点だ。
長蛇の列に並んだ末、パサパサに乾いたハンバーガーと、2リットルのペットボトルから紙コップに注がれた「南アルプスの天然水」のセットを1050円で買った時の悲しさときたら……。これなら、700円のハイネケンで無理やり腹を満たすしかないという気持ちにもなる。
(※)9月23日午後、スタジアム内への食品持ち込み禁止をやめる、と突然の方針転換が主催者から発表されたので、新横浜や小机で購入したものを持ち込めるようになった
新横浜が悪い印象とならぬよう願う
主催者が言うところのスタジアム内における「多種多様な飲食コーナー」についての分析が長くなったが、もう一つだけどうしても書き残しておきたい気がかりな点があった。
「大会の興奮を存分に堪能していただくために設けられた特別なホスピタリティー空間」(ラグビーワールドカップ2019ホスピタリティ公式サイト)だという1人30万円以上する入場券付きの“VIPプラン”向けの設備についてだ。
“特別なホスピタリティー空間”を提供するための「ウェブエリスパビリオン」は、新横浜少年野球場を占拠して建てられ、その出入口はF・マリノス通りの「さんかく橋」側に設けられている。
もし、来場者が間違えて「スタジアム通り」(浜鳥橋側)からアクセスしてしまうと悲しいことに、野球場のバックネット付近に、大量のごみを積んであるのが目に入ってしまう。せめて目隠しくらいはできないものか(夢を壊したくないので、あえて写真は掲載しない)。
ホスピタリティプランを購入していない筆者に“VIP施設”の良し悪しを述べる権利はないが、「一生に一度」と大金を支払って訪問してきた人々に、新横浜の街や日産スタジアムに悪い思い出を残すようなことが無いようにだけは切に願いたい。
「東ゲート前広場」へは行ってみる価値あり
そろそろスタジアムでの楽しい話を。各種エンターテインメントが行われるという「東ゲート前広場」は、外周道路とともに入場券チェック後は自由に通行できる区域となっていて、観戦者は誰でも行くことが可能だ(こうした案内も当然少ない)。
もし、西ゲートや南ゲートなどから入場した(させられた)場合でも、スタジアム内を移動して一度は東ゲート広場の雰囲気を体感しておきたいところ。
他の会場で開催されている試合のパブリックビューイングも実施されており、そこで観ているのは多くが海外からの客で、階段や地べたに座って、真剣なまなざしをひたすらおくり続ける姿には驚かされる(やはり片手にハイネケンは持っているが)。
また、東ゲート前広場には、公式スポンサーによる各種ブースが立ち並び、ハイネケンの巨大販売所まで出現させていた。
1日目の9月21日(土)のみ出店していたのが、大会公式スポンサーでは2番目のカテゴリとなる「オフィシャルスポンサー」で、ラグビー日本代表も長年支援している大正製薬「リポビタンD」のブース。
スタッフが「これから大事な試合の観戦ですから、元気を付けていきましょう!」「さあみんなで、ファイト、一発!」などと拳をあげて叫び、希望者全員にリポビタンDをふるまうという太っ腹ぶり。
日本のローカル色が強すぎるためか、海外客はほぼ皆無だったが、スタジアム内の“多種多様な飲食コーナー”に打ちのめされた身としては、リポビタンDを飲んで元気を取り戻せた気がした。
普段はF・マリノスのグッズショップとして使われている東ゲート広場の丸い建物は、ラグビーW杯の公式ショップに変化。常に長蛇の列がみられたので、3時間前の開場と同時に訪れるのが良いのかもしれない。
何にせよ、ラグビーW杯では4年に一度しか観られない80分間の真剣勝負が一番の主役だ。
ただ、大きな金が動く世界的なイベントでもあるので、スタジアムは大会公式スポンサーのショールームにせざるを得ないと考えれば、日本人でも理解はしやすい(共感は難しいが)。
しつこいようだが、大会の主催者はワールドラグビー(本部:アイルランド)であって、われわれ港北区民や横浜市民が主体的に関わっているのは、会場や周辺で必死に働いているボランティアスタッフや、奉仕の精神で行っている周辺での「おもてなしイベント」だけです。(田山勇一)
【関連記事】
・<ラグビーW杯レポート>新横浜・小机が“異世界”のように感じた2日間(2019年9月24日、街や試合の様子についてのレポート)
・<レポート>日吉・綱島からアクセス良好、熱狂のラグビーW杯「ファンゾーン」(横浜日吉新聞、2019年9月24日、みなとみらいにあるファンゾーンについて)
【参考リンク】