防災訓練に「家」や「職場」からでも参加できる――横浜市が推奨する「在宅避難」時にも、安心・安全に情報共有する体制づくりが進んでいます。
大倉山4丁目の横浜市太尾保育園の周辺と3丁目の大綱中学校正門付近の一帯をエリアとする「太尾南町会」(花岡正敏会長)は、2022年度の防災訓練を太尾会館(大倉山4)で実施。
9月11日(日)の午後に「防災対策本部」を同会館に設置、23区ある「理事」宅と会館をオンライン会議システム「Zoom(ズーム)」で結び、安否確認や各地区の被災状況を共有する試みもおこなわれました。
同町内会での「Zoom」活用の試みは「新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年度からおこなってきたため、3年目(3回目)の実施となります」と、同町内会の防災部部長で家庭防災員の山福久雄さん。
幼少期から防災に関心を深めていたという山福さんは、新型コロナ禍の拡大により「それまでとは異なる防災訓練が求められていたこともあり、新しい手法にチャレンジすることを決めました」と、40代、そして50代といった世代の人々とともにZoomなどのITスキルを駆使しての「情報連携」に挑戦。
2021年度には「太尾南町防災会」を設置し、前年度の「理事」にも、防災会に入会してもらい、翌年度の防災訓練に参加してもらうことでの担い手の拡大にも努めながら、今年度の訓練をおこなったといいます。
育児や子ども会への参加を通じて町内会の活動をスタートしたという映像クリエイターの藤川真臣(まさおみ)さんが、2020年度に「コロナ時代の防災訓練ダイジェスト」と名付けた記録動画を制作、好評を博したことから、翌2021年度にはより詳しい内容を盛り込んだ約35分12秒の拡大版動画を公開。
Zoomやツイッターを活用した情報伝達やAEDの使用方法、トイレ設営といった、「在宅避難」が推奨されている“コロナ時代”ならではのポイントを解説しながらの映像作品に仕上げています。
山福さんは、特に「避難所のキャパシティ」の限界も感じているといい、「大きな災害があったとしても、実際に地域防災拠点(同町内会は大綱小学校=大倉山4)に避難できる人はわずかの割合となります。自宅で避難する際、トイレを使用できない場合の凝固剤の使用方法についても訓練でおこなっています。各家庭でもいざという災害に備え備蓄いただければ」と、訓練内容の周知や、トイレ対策の備品の購入などの備えの必要性を呼び掛けます。
なお、同町内会では、Zoomの使用方法などを、実際に各「理事」宅などに出向いてのレクチャーも実施中。
「若い世代が、シニアの世代にもITの活用方法を伝授してくれてありがたい」といった声や、「安心して訓練に臨めました」という感想もあがっており、IT普及がシニアと若手の交流を促すという側面からも、地域での防災力を高めることにつながりそうです。
港北区で地域防災を担当する総務部総務課の野村絹恵課長は、「Zoomを活用した防災訓練は、区内では(区役所として)他に事例としてのケースを把握していません。新しいチャレンジに感謝しながら情報を共有していきたい」と、電気やインターネット環境が必須となるものの、“IT活用”に舵(かじ)を切った同町内会の“挑戦”に熱きエールを送っていました。
「来年以降は、さらに新しいアイデアや手法を盛り込みながら、訓練をバージョンアップしていきたい。特に関与するメンバーを増やし、情報やスキルの共有をすすめることでの、“属人性(誰かに依存する手法)”を廃することで、誰もが防災対策本部を運営することができる体制や手法を整えたい」と語る山福さん。
これまで「固定化」した訓練を繰り返すことも多かった自治会・町内会における防災対策をゼロから見直し、災害が頻発する時代に合わせた体制づくりや手法にも挑戦する同町内会。
IT機器や動画も時に駆使した訓練内容の見直しや実践による災害対策が、周辺地域のモデル事例としても認知されることになりそうです。
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・樽町に3人の新会長、3年ぶり「防災訓練」でIT活用のチャレンジも(横浜日吉新聞、2022年7月11日)※タブレット端末に避難者情報を入力し「見える化」する試みをおこなった
・太尾小と地域の「防災まちづくり」が総務大臣賞、都市型問題クリアも高評価(2021年3月31日)
・大倉山の「夢まちづくり」映像が完成、10周年迎える活動に込めた想い(2019年3月8日)※藤川さんが制作を担当
【参考リンク】
・大倉山地区連合町会の紹介(港北区連合町内会)
・在宅避難啓発リーフレット(横浜市港北区)※「新型コロナウイルス感染症」の影響で避難所の感染対策の一つとしても有効な在宅避難を推奨している