「相鉄・東急直通線」の工事が行われている日吉や綱島、大倉山、菊名、新横浜などの港北区内では、今月(2016年11月)8日に福岡県の博多駅前で起こった道路陥没事故を人ごとではないと感じたかもしれません。ただ、11月時点で日吉~新綱島~新横浜間を結ぶ2本のトンネルについては「掘削の準備を行っている段階で、まだ掘っていない」(鉄道・運輸機構)という状況のため、今は崩落事故が起こる危険性はほぼありません。
今月8日早朝に博多駅前で起きた陥没事故では、幹線道路が約30メートル四方にわたって次々と崩落していく映像が幾度もテレビで放送されました。陥没は地下25メートルで行われていた地下鉄の建設工事が引き起こしたものと考えられています。
相鉄・東急直通線では、全10キロのうち約9キロが“地下鉄”として計画されており、このうち港北区内では「綱島トンネル」(箕輪町2丁目~新綱島駅間=1.1キロ)と「新横浜トンネル」(新綱島駅~新横浜駅間=3.3キロ)の2本のトンネルが掘られることになっています。
今年夏(2016年8月)、当初の「2019年4月開通予定」を3年半延期することを鉄道・運輸機構が発表したことからも分かるように、現時点で2本のトンネルは掘削工事が行われていません。現在、進められているのは、日吉駅付近での高架橋部分の工事と、新綱島駅(仮称)や新横浜駅(仮称)の建設が中心です。
ただ、新綱島駅付近などを中心に地盤の弱さが指摘されており、その対策に時間を取られたために、工事の遅れにつながったことが公式に表明されています。
来年(2017年)以降、トンネル掘削工事が行われるなかで、上部に危険がおよぶことはないのでしょうか。特に不安を抱えているのが、住宅街の真下を新横浜トンネルが通る大倉山3丁目と隣接する菊名7丁目、環状2号線に近い大豆戸(まめど)地区の住民です。
大倉山を代表する駅近の住宅街、真下にトンネル
大倉山駅から「エルム通り商店街」の通りを横断し、東急高架橋沿いに歩いてわずか1~2分。“大倉山ブランド”を代表するような閑静な住宅街の真下を相鉄・東急直通線のトンネルが貫く計画となっています。
付近の住民によると、計画が発表された当初はトンネルの深さが19メートルから23メートル。住宅を固定するために地中深くまで埋められた「杭」にさえ、接触しかねない位置だったといわれています。
驚いた住民らは地元の町内会・自治会とともに工事主体である鉄道・運輸機構に対し、地上部に影響が及ばない地下40メートル以上の深さにトンネルを掘る「大深度地下」による計画に変えるよう求めました。
ただ、大深度でトンネルを掘った場合には、新横浜駅の位置である地下5階が地下6階相当とあまりに深くなってしまい、乗り換えに不便が生じてしまうことから、鉄道・運輸機構は採用が困難であるとの立場。その後、同機構は当初案の約19~23メートルを約25~40メートルまで深くする計画に変え、周辺住民に理解を求めてきた経緯があります。
「きたせん」工事での事故、同じ地層に懸念
これまで一貫して工事に対する不安を訴え続けてきたのが大倉山3丁目の住宅街に住む瀬谷正行さんです。
その不安は、港北区内で行われていた高速道路の横浜環状北線(横浜北線=2017年3月開通予定、第三京浜道路・港北インターチェンジ~新横浜出入口~横浜羽田空港線・生麦ジャンクション、約8.2km)の工事でも見られたといいます。
「2011年12月に大豆戸(まめど)町にある神奈川税務署前では、地下30メートルに掘っていたシールドトンネルの上部で柔らかい土の層を掘り出してしまい、地下水が流れ出す事故が起きています。この時は3週間にわたってセメントベントナイト(セメントを水でミルク状にしたもの)を流し込む処置を行ったようですが、もし、地上部に住宅が建っていたら相当に危険な状態だったのではないでしょうか」。
瀬谷さんがたまたま事故現場を通りかかり、現場監督に尋ねたことから明らかになったといいます。
「この現場と同様の地層は、菊名7丁目を結ぶ延長線上の大倉山3丁目にも連続していると考えられます。今回のトンネル工事を不安視しているのはそのためで、われわれは安心して住むことが難しくなってしまいます」(瀬谷さん)。
3住宅街の75%は契約完了、土地収用法も告知
一方、住宅街の地下を貫くトンネルの計画が発表されてから6年が経過し、大倉山や菊名、大豆戸の3地区でも工事開始へ向けた環境は整えられつつあります。
関係者によると、大倉山や菊名、大豆戸の3地区におけるトンネル工事に関わる地権者は約80名。今年夏までに面積比では約75%で「区分地上権」(地下を使う権利)の契約が済んだといい、測量もほぼ終えた模様です。
今年7月26日には鉄道・運輸機構が「土地収用法による手続きを開始する」ことを告知する看板を大倉山駅近くに建てており、そこには「土地使用の手続き」(地下部分のみを使うため、土地を収容するのではなく「使用」となる)を開始する場所として、大豆戸町字下土浮と菊名7丁目、大倉山3丁目の3住所があげられています。
土地収用法は、事業者が公共事業を行う際に必要な土地を“収容”できる法律。収用委員会の裁決が行われた場合は、住民の同意がなくても、補償金を支払ったうえで土地を収用することが可能となります。
「鉄道・運輸機構はあくまで地権者と話し合いで解決したいと言っているが、もう(土地収用法で)強制的に工事をやるということなんだろう」とある地権者は話します。
鉄道・運輸機構では来月(2016年12月)17日にも大倉山や菊名、大豆戸の住民を対象にトンネル工事の説明会を開く考えです。
鉄道・運輸機構は「確かに博多の崩落事故はインパクトがありましたが、相鉄・東急直通線のトンネルはシールド工法(※)で掘削するため、(ナトム工法を用いた)博多の現場とは工法が異なります。余分な土砂を掘り過ぎないようトンネルの周囲に圧力をかけ、常に安全管理を行いながら掘り進めていきたい」と話します。
住民の不安を取り除いたうえで、今度こそ2022年の秋までに相鉄・東急直通線を完成させることはできるのでしょうか。
(※)シールド工法とは=地盤の崩壊を防ぐため鋼製円筒(シールド)の中で、筒状の掘削機「シールドマシン」によって掘削を進めていく工法(コトバンクなど参照)
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・<環状2号線で路面陥没>新横浜から大豆戸交差点、大倉山駅付近まで大混乱(2020年6月12日、「新横浜トンネル」工事現場の真上で発生)
・新綱島駅周辺は「思ったよりも軟弱地盤が深かった」、市が工事遅れの背景明かす(横浜日吉新聞、2016年9月13日)
・<相鉄直通線の延期問題>「東急直通線」には完成施設が何もないという現実(横浜日吉新聞、2016年8月27日)
・<相鉄・東急直通線>環状2号地下を通る電気・ガスなどの埋設物、移設に手間取り遅れ発生(2016年9月13日)
【参考リンク】
・相鉄・JR直通線、相鉄・東急直通線の公式ホームページ(鉄道・運輸機構)
・相鉄・東急直通線環境影響評価準備書に対する“意見陳述人”有志の共有サイト(大倉山3丁目・菊名7丁目エリアでの工事に関する危険性などを指摘、2013年まで運営)