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【市長候補の独自研究・第7回】8人もの候補者が乱立する横浜市長選(2021年8月22日投開票)。なんとなく名前は分かるけど、詳しい人となりはよく分からないという候補者一人ひとりの歩みや政策を独自に研究し、公式プロフィールに載っていない内容も含め、港北区在住のライター・田山勇一氏がまとめました。告示順に第7回は林文子氏(現職市長)の紹介です。

  • 本連載の元となる記事「<横浜市長選>実は名前程度しか分からない? 候補者8人の徹底研究を試みる」はこちらに掲載している
  • 誰もが情報を共有できるよう情報元はインターネット上に公開されているホームページやSNS、動画などの内容に限定した。市販されている書籍の内容も一部あり、その場合は出典元を記載した。また、街頭などリアルの場で見聞きしたことはその旨を記した。
  • 街頭で配っていたり、新聞に折り込まれたりしたチラシの類は情報源から外した
  • 候補者の選挙ポスターはコロナ禍で外出しなくても見られるよう、掲示板から接写して転載した
  • <筆者の感想・メモ>の部分など、本ページは筆者(ライター・田山)個人の見解と感想によって構成したもので、「横浜日吉新聞」や「新横浜新聞~しんよこ新聞」を代表するものではない(田山勇一)

林文子氏(横浜市長)

林文子氏の選挙ポスター、候補者番号(7)

【各種公開情報による経歴】1946(昭和21)年5月生まれ、東京都出身、75歳。都立青山高校卒業。1965(昭和40)年、東洋レーヨン株式会社(現「東レ」)、松下電器産業株式会社(現パナソニック)などに勤務。1977年、ホンダオート横浜株式会社を皮切りにBMW株式会社などに勤務。
1999(平成11)年、ファーレン東京株式会社(現フォルクスワーゲンジャパン販売)代表取締役社長。2003(平成15)年、BMW東京株式会社代表取締役社長。2005(平成17)年、株式会社ダイエー代表取締役会長兼CEO。2008(平成20)年、東京日産自動車販売株式会社代表取締役社長。2009(平成21)年から横浜市長(当選3回)。経営やビジネスノウハウ関連の著書も多い

<公式経歴以外の事項>

  • 林氏の経歴については、BMW東京の社長時代にサイト「イー・ウーマン」を運営する佐々木かをり氏と行った対談がインターネット上に残されており、車の販売という仕事と出会うまでの経緯について、次のように話している
  • 「高校を出て、まず東洋レーヨンに入りました。当時、昭和40(1965)年ですから、高校を出た人の大半がそのまま就職していましたよね。大学に行く人が少なかったんですよ。大企業、一流企業に勤めるのが夢というか、女子高校生はそんな気持ちだったんです」
  • 「都立青山高校という男女共学でもすごく自由な空気で育てられたんで、企業に入ってからのあの差別というのにはびっくりしてしまったんですね。そこから転職が始まって、松下電器に行きました」
  • 「事業部長秘書だったんだけど、そそっかしくてね。入って3日目で今の夫に知り合ってね。本当にひと目ぼれなんですよ。それですぐデートして、1カ月後くらいに婚約してしまった。何のために入ってきたの?という感じになりますよね」
  • 「だから結婚したらやっぱり辞めるのかなというのはありましたけどね。それでも働きたくてオムロン(当時の立石電気)に行きました。特別なスキルもないし、事務補助みたいな仕事ですよね」
  • 「ホンダの車を買ったことがきっかけになって、ホンダのセールスマンがセールスをしにいらっしゃったんです。でもわたしのほうが、社交的というか人が好きだし、逆にセールスマンをおもてなししてしまうんですよ。それが高じてきて、『あ、これならできるかもしれないな』と思うようになったんですよ」
  • 東京日産自動車販売の社長から市長への転身については、著書「共感する力」(2013年、ワニブックス)に「これからの横浜市政には女性の感性が必要です。女性経営者としての経験を生かしてほしい」と2009年8月に立候補を要請され、2日ほど熟慮の末、天命と感じて引き受けたと書いている
  • 別の著書「しなやかな仕事術」(2013年、PHP新書)によると、5歳年上の夫からは「選挙に出るなら、離婚だ!」と言われ、一日半にわたって口をきいてもらえず、市長の仕事を家に持ち込まないことを約束して理解を得たという
  • なお、2009年の初当選時は民主党(当時)の推薦だった。市長選と同日実施の衆院選では民主党が圧勝し、政権交代を果たしている

<主な支持者(推定)>

  • 「IR」に賛成の市民や団体
  • 林氏を支援する自民党市議6人の支持者(中区選出の元議長、青葉区選出の前議長、磯子区選出の建築・都市整備・道路委員会委員長、南区選出の同委員会副委員長、港南区選出の国際・経済・港湾委員会委員、泉区選出の市民・文化観光・消防委員会委員)
  • これまで林氏を支えてきた支持者

<主な政策・訴え>

  • 3期12年にわたり「共感と信頼の市政」「おもてなしの行政サービス」「現場主義」を基本に、安全・安心な市民生活と横浜の持続可能な成長・発展のために、全身全霊で市政運営に専心してきた
  • 日本初の保育所待機児童ゼロの達成や100社以上の企業誘致、7隻同時着岸可能なワールドクラスのクルーズポートなどあらゆる分野において、市民の安全・安心な暮らしと横浜経済の活性化を進めてきた
  • 中学校給食や学校エアコン整備、駅前再開発と区民文化センター、区役所などの耐震化・再整備、小児医療費助成、障害児施設整備や医療的ケア児・者等の支援など長年懸案であった課題解決につとめてきた
  • 令和元年度の窓口サービス満足度が「99%」となったように、市役所は市民本位の風土に変わった。市民や企業との協働・共創も進んでいる。脱炭素社会に向けてイノベーション都市として進化し続けている。DX(デジタルトランスフォーメーション)、業務の効率化、財政の健全化はたゆまず進めている
  • 【コロナ対策】検査・ワクチン接種の徹底、円滑化、費用支援、IT弱者にもやさしい案内や手続きのための支援
  • 【コロナ対策】横浜市独自の医療体制「Y-CERT(ワイ・サート)」およびクラスター予防・対策チーム「Y-AEIT(ワイ・エイト)」を基本とする一貫した医療対応
  • 【コロナ対策】保健所の連絡・相談機能など体制強化
  • 【コロナ支援】感染家族への支援(子供預りなど)、失業、就学機会喪失など支援、住居確保・家賃負担支援、ひとり親世帯支援等新たな助成制度を創設
  • 【コロナ支援】身近な地域での就労の継続・再就職の支援や中小企業等への人材確保・マッチング支援の強化
  • 【コロナ支援】商工会議所など関係機関と連携した訪問相談や支援情報の提供、中小企業融資や設備投資助成、販路開拓などきめ細かい支援の推進
  • 【経済再生】活発な企業立地のための立地条例の改正、郊外部の立地促進
  • 【経済再生】将来をも見据えた力強い経済再生のための多様で実効性のある政策・事業の推進
  • 【経済再生】「ショートタイムテレワーク」の実証・実験・市内普及の促進、サービスオフィス市内立地と活発な利活用の促進
  • 【危機管理・災害対策】コロナ禍対応を契機としたパンデミック対応システムの確立
  • 【危機管理・災害対策】金沢水際線護岸整備や大黒ふ頭海岸保全施設の整備など高潮・高波対策強化、河川改修や雨水幹線の整備推進
  • 【経済対策】豊かなノウハウや活力を有する民間との「共創」によるオープンイノベーションをあらゆる分野で積極的に展開
  • 【経済対策】新たな「横浜市国際戦略」に基づき、海外との新たな人材の交流・育成や海外ビジネス創出、国際会議やスポーツ・イベントの開催、文化芸術の創出、海外からの企業誘致や観光客の拡大、SDGsや脱炭素関連の国際連携・協力など多様で実効性のある施策の展開
  • 【経済対策】「I・TOP横浜(IoTオープンイノベーションパートナーズ)」や「LIP.横浜(横浜ライフイノベーションプラットフォーム)」の活用による産官学の一層緊密な連携によりIoTビジネスや健康・医療産業を創出
  • 【経済対策】いすゞ自動車やソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズなど企業本社の積極的誘致をはかり横浜経済の集積や自立化を促進、東芝の工場新設や三菱ケミカル研究拠点集約など先端技術を担う工場・研究所などの誘致による先端技術の集積と情報発信力の向上
  • 【経済対策】ベンチャー企業成長支援拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」を通じたグローバル拠点都市としての人・企業・投資を呼び込む環境整備
  • 【IR関連】アフターコロナを見据え、世界を惹きつける国際観光都市の実現に向けて大きな推進力となる「横浜イノベーションIR」を着実に進める
  • 【IR関連】だれもが楽しみ、憩い、働き、ビジネスを行うことができる「市民と共にある新時代の空間」を創出
  • 【IR関連】世界最高水準の徹底したカジノ依存症対策のみならず、IR推進を契機としてギャンブル・アルコール・薬物・ネット・ゲームなど多様な依存症への本格的な取組みを国・県・市連携で推進
  • 【観光・賑わい】「Dance Dance Dance@YOKOHAMA」「横浜音祭り」「横浜トリエンナーレ」の3大イベントを核に新時代をひらく世界レベルのイベントの定期的開催
  • 【観光・賑わい】臨海部イルミネーションなど新たな横浜情緒を醸し出す多彩なイベントの開催、魅力ある旅行商品販売や宿泊プロモーション、クルーズ船受け入れ促進など、多彩で夢のある観光やエンターテインメント機会の創出
  • 【観光・賑わい】商店街でのキャッシュレス決済導入の支援、コロナ禍からの再生を踏まえた商店街活性化プロジェクトの展開
  • 【観光・賑わい】横浜に賑わいと活力をもたらすわが国を代表する「新たな劇場」を整備、コロナ禍の影響やデジタル化、SDGsを踏まえたスマート劇場など新たな時代を牽引する劇場の可能性を検討
  • 【観光・賑わい】ナイトタイムを有効に活用し、街に楽しさと活力を生み出す、夜間の魅力ある体験型コンテンツの拡充や公共空間の柔軟な活用
  • 【農業】次世代を担う横浜農業の担い手の育成支援、横浜型都市農業への取組みや経営改善のための支援
  • 【農業】農と市民・企業連携による「横浜農場」を活用した市内産農畜産物の直売支援やブランド化のための多彩なPR展開、学校給食での一斉供給など地産地消の取組みの積極的な推進
  • 【米軍施設跡】旧上瀬谷通信施設跡地で、自然との共生や優れた園芸文化発信のための「2027年国際園芸博覧会」誘致を目指すとともに、地域の核としての街づくりや交通システム導入など有効活用方策を検討
  • 【スポーツ関連】「横浜マラソン」開催や「横浜文化体育館メインアリーナ」供用開始などイベントや施設利用の推進、ワールドトライアスロン・パラトライアスロンシリーズ、バレーボールワールドグランプリ、世界卓球選手権などの実績と国際規格の施設を活かした世界規模のスポーツ大会やイベントの開催
  • 【福祉】特別養護老人ホームの整備拡充、要介護認定業務円滑化・効率化のための要介護認定事務センターの本格稼働、認知症疾患医療センターの拡充
  • 【福祉】障害者グループホーム整備の拡充、重度障害者への自動車燃料費助成制度創設など移動支援の充実、法定雇用率の引き上げも見据えた市役所などの雇用拡大など雇用環境の充実
  • 【子育て】待機児童ゼロ化に向けて受入環境のさらなる充実、産後母子ケアの充実、特定不妊治療費助成の拡充
  • 【子育て】「こども家庭総合支援拠点」機能の各区整備など児童虐待の相談・安全確保・自立までの切れ目ない支援を強化
  • 【子育て】短時間利用ニーズ対応など「放課後キッズクラブ」の一層の質向上
  • 【教育】市立図書館の蔵書充実など読書活動の推進
  • 【教育】総合学校支援システム(業務改善、教育活動支援)などICT基盤整備、教材作成など支援員派遣など国のGIGAスクール構想に基づくICT教育の推進
  • 【教育】学校施設の効果的・効率的な建替えの推進、教育文化センターの再整備
  • 【女性活躍】能力にふさわしい女性の活躍推進やダイバーシティ(多様性)の効果を十分発揮できるような組織風土の改革、社会や家族環境、職場環境での様々な障壁の解決に向けた支援
  • 【女性活躍】「横浜ウーマンビジネスフェスタ」「女性としごと応援デスク」「横浜女性起業家COLLECTION」など多様な支援・相談施策の継続と充実、企業と女性求職・転職者のマッチング機能の強化
  • 【医療】新たな時代の市民医療を担う診療・教育・研究拠点として横浜市立大学付属病院を統合し米軍根岸住宅地区跡地に整備を推進
  • 【医療】横浜市立大などが取り組む複数の医療機関を支援する遠隔医療体制「Tele-ICU(テレICU)」の本格稼働
  • 【依存症対策】アルコール、薬物、ギャンブル、ネット、ゲーム等依存症全般を対象に「横浜市依存症対策地域支援計画(仮称)」を策定し、実態の把握・研究、予防・ケアの支援を計画的に実現
  • 【まちづくり】国際都市の玄関口にふさわしい横浜駅周辺地区のまちづくりを進めるための指針「エキサイトよこはま22」の策定と着実な推進、「横浜駅きた西口鶴屋地区」再開発事業や「東高島駅北地区」開発事業など拠点開発事業の推進
  • 【まちづくり】「みなとみらい21地区」のMICE、R&D拠点としての機能整備強化
  • 【まちづくり】賑わい・活性化機能の強化や交通結節拠点の整備を含めた旧市庁舎街区事業の本格的推進
  • 【まちづくり】「新綱島駅周辺」など市街地開発事業をはじめとする地域の拠点整備の推進
  • 【交通】横浜環状南線の整備(2024年度開通予定)、横浜湘南道路の整備(2025年度開通予定)、東部方面線相鉄・東急直通線の整備(2022年度開業予定)、高速鉄道3号線(ブルーライン)の延伸整備の推進

<筆者の感想・メモ>

  • 現役の横浜市長なので、市が進める膨大な政策について、林氏の選挙政策・公約にも多くが盛り込まれており、項目が多すぎるので一部を割愛した(それでも多い)
  • 林氏は3期12年と市長の職歴が長く、すでに「横浜市長」以外の経歴について知らない人も増えたので、社会に出た当時の時代背景がわかるようなエピソードなどを拾ってきて冒頭に載せた(貴重なインタビュー記事をネット上に残しておいてくれたサイト運営者に感謝)
  • 政策・公約は総花的で、横浜市が発表した分厚い中期計画書を読んでいるかのようで苦しかった。ただ、現役市長だけあってあらゆる分野に細かく目を配っているのは分かる
  • 政策・公約に斬新さは感じなかったが、IRや観光を含めて税収につながる「経済」分野になると、どこか躍動感が見えてくるのは気のせいだろうか
  • 今回の選挙は、3期以上の候補者は推薦しないという自民党の方針(横浜市の条例でも4期目の出馬は止めるよう求めている)もあって、林氏を推すのではなく、同党から小此木氏が立候補を表明
  • 小此木氏が「IR推進」を主張するならば75歳の林氏は素直に勇退したのかもしれないが、突如「IR取り止め」を掲げたことで情勢が変化。「私が立候補しないと市民の(IR賛成という)選択肢がなくなる。国の戦略を自ら覆されるという、こんな不実なことがあっていいとは思わない」(告示日の第一声)と怒りをにじませて出馬
  • IRを推進してきた自民党市議(36人)のなかで6人が林氏の支持を表明し、30人は小此木氏を支持する形に分かれ、自民党は“自主投票”という名の分裂選挙となった
  • 小此木氏は30人の市議(さらには菅総理も)の支持+公明党も自主支援という手厚い体制を築いたことに対し、林氏の側はわずか市議6人。さらに、IR反対で気勢が上がる立憲民主党などが組織を挙げて推す山中氏らとも戦うことに
  • IRには反対の意思を示す市民が多いうえ、自身の支持体制も脆弱というなかで迎えた4期目の選挙は、圧倒的に不利、といえる状況に追い込まれているが、“戦闘モード”に入った林氏の顔を見ていると、古い男社会のなかでも経営者や市長まで道を切り拓いてきた先駆者だけに、簡単に負ける感じはしない
  • 政局がらみの話を長々と書いて恐縮だが、今回の選挙が“カオス状態”となっているのも、すべては林氏が決断したIRからということを考えると、林市政の最終決戦であり、ある意味で選挙の主役といえるのではないか
  • <ネット上には無い情報>駅など街頭での演説時には、オレンジ色のTシャツを着た6人の市議がチラシを配るなど常にサポートしているが、現職市長の選挙選としては寂しい印象。わずか7人のサムライ(候補者+市議)が結束と気合で、巨大な戦隊(かつて家老だった者も含む)に取り囲まれて追い詰められながらも、なぎ倒してしまう、そんな映画かドラマのような展開を少し期待してしまったりも……(「IR」の是非とは関係なく、判官びいきで)

<公開情報一覧>

横浜市長選・候補者8人の独自研究

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