2年超にわたって市民を巻き込んでの大騒動となっていた横浜市の「IR(カジノを含んだ統合型リゾート)誘致計画」は“店じまい”となりつつあるようです。きのう(2021年)9月13日までに市のIR提案審査に応じていた2社が正式に撤退を表明し、市は過去に公開していたIR関連の情報発信ページやSNSなどの削除を進めています。
今年6月11日まで市が行っていたIR事業の提案審査公募には、シンガポールでIRを運営する「ゲンティン・シンガポール・リミテッド」を代表とし、ゲーム・パチンコメーカーのセガサミーホールディングス株式会社(東京都品川区)など日本企業5社が参画したグループと、“匿名”を希望するもう1グループの計2グループが応募していました。
しかし、横浜市では、IR誘致反対を掲げて当選した新市長が就任したことから、先週9月10日(金)にIR運営事業者の公募中止を決定。
これをうけ、ゲンティン・シンガポールは同日付けで「予期しない出来事に驚き、失望した」などとする英語のニュースリリースを通じ、横浜でのIRから撤退を正式に表明。また、グループに入っていたセガサミーホールディングスも、「横浜市におけるIR事業への参画を中止せざるを得ない状況」(同社)としました。
匿名を希望していたもう1グループは、マカオなどでIRを展開する「メルコリゾーツ&エンターテインメント」などとみられていましたが、同社はきのう9月13日(月)に日本語によるニュースリリースを発表。
そのなかで同社は、「IR反対を掲げて立候補し、当選した新市長の方針により、私たちが目指してきた横浜でのIR実現の扉は正式に閉じられたことになります。大変遺憾ではありますが、これまでの過程を通じて形成された友情に感謝するとともに、多大なご支援をいただいた横浜市の皆様、自治体、ビジネスやコミュニティパートナーの皆さまに心からお礼を申し上げます」と記し、市の公募に応じていたことを公表。
そのうえで、「横浜オフィスは閉鎖しますが、都内オフィスは維持し、今後も日本での開発機会を模索してまいります」として、横浜市のIR公募からは撤退する方針を明かしました。
一方、2年前の2019年8月に山下埠頭へのIR誘致を正式に決め、市民向けの情報を発信してきた横浜市は、IR関連情報を掲載していた「横浜IR(統合型リゾート)のウェブサイト」をきのう9月13日までに公式サイト内から削除。市民からの意見と市の回答を載せていた「市民説明会」のページも見つからない状態です。
また、市が運用していたSNS「Facebook(フェイスブック)」でのIR情報発信ページや、「横浜イノベーションIR市長説明動画」などのPR動画類も見られなくなっていました。
市はこれまでに、IR誘致に関連して2019年9月に2億6000万円を補正予算として計上したのを皮切りに、2020年度には4億円、今年2021年度は3億6000万円を予算化。監査法人のアドバイザリー費用や広報活動などに使ったほか、誘致表明以前にも調査検討費として毎年1000万円の予算を組んでいました。
市の公表資料では、IR誘致に成功した場合は年間820億円から1200億円の税収増になると試算されていましたが、誘致の断念によって、それらの税収を得られる可能性は消滅。市職員の人件費を除き、これまでに少なくとも10億円超という市民の税金が費やされ、IRを調査するための“授業料”として消えたことになります。
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・<コラム>“お金のない横浜市”が「カジノ」で多額の税収増なるか(横浜日吉新聞、2019年8月26日、IR誘致決定時の記事)
【参考リンク】
・IR(統合型リゾート)等新たな戦略的都市づくり検討(これまでの検討)(横浜市都市整備局、これまでの記録は一部残っている)