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選挙が終わって一週間近く経っても連日マスコミが報じ続ける東京都議会議員選挙。一方、横浜市でも市長選挙が今月(2017年7月)30日(日)に行われることは、報じられることも少なく、ほとんど知られていません。前回(2013年8月)はわずか29%(港北区はさらに低い28.2%)という過去ワーストの投票率を叩き出してしまった横浜市長選。同じ首都圏にありながら、なぜ盛り上がりに欠けているのでしょうか。

横浜市は神奈川県よりも多い3兆5000億円もの予算規模を持つ(市公式サイトより)

全国に「市長」と呼ばれる立場の代表者は791人(2016年10月現在)いますが、そのなかでも横浜市長は別格です。人口は日本の基礎自治体(市区町村)で最大の373万人にのぼり、予算も約3兆5700億円(2017年度当初、一般会計1兆6459億円に特別会計・公営企業会計を合計した数字)と中小国家並みの規模を持っています。東京都の13兆542億円(同)には及びませんが、神奈川県の3兆2746億円(同)よりもわずかに大きい規模で、「市」ながら「県」を上回るほどの力を持っているといえます。

この3兆5000億円もの予算を差配するのが横浜市長の仕事で、最初から決まっている支出もあるため、自由に動かせる部分は限定されるものの政策や人事権など、大きな権力が与えられる代表者であることは間違いありません。

統一地方選挙での実施時(昭和50年まで)や衆議院選挙と同時投票となった平成21=2009年を除き、市長選挙単独で50%以上の投票率を記録したことがない(横浜市選挙管理委員会サイトより)

ところがこの市長選、横浜市民が大きな関心を持ったことはほとんどないようです。政権交代が起こった衆議院選挙と同時投票となった2009年8月には68.7%という高い投票率を記録しましたが、これは盛り上がった“国政選挙のついで”に数字が上がったとみられます。

この30年ほどの間、2009年を除いては、1978(昭和53)年以降は常に投票率が32%~39%と3割台。10人に4人以下しか投票しておらず、前回2013年にいたっては10人に3人以下という状態で、もはや横浜市民にとって市長選は、政治家と一部の政治好きだけが盛り上がっている「どうでもいい“政治イベント”」と認識されているようにさえ見えます。

投票率が低くなる理由の一つとして考えられるのが、市民に身近な話題が争点や論点になりづらい、という点です。巨大な規模を持つ自治体だけに、横浜市内全体で有権者は309万1550人(6月1日現在)におよび、このうち港北区は市内18区では最高となる28万5077人(同)がいますが、市全体で見れば1割にも達していません。

たとえば、港北区の公約に特化した“港北太郎”という人が立候補し、下記のような“港北区ファースト的”な「公約」を掲げたとします。

  • 綱島(新綱島)と新横浜(篠原口)の駅前と箕輪町に図書館を3館増設
  • 新綱島駅に作る区民文化センターは1000人規模のホールに計画変更
  • 綱島街道と横浜上麻生線の区内4車線化はすぐ着手
  • 菊名駅の大倉山側と新横浜駅の小机側に改札口を増設
  • 大倉山駅付近の地下に「相鉄・東急直通線」の駅を新設
  • グリーンライン日吉~鶴見間の延伸に着手するとともに、新たに6両編成化と快速運転を実施(高田と日吉本町への停車必須)
  • 横浜市の新庁舎は新横浜駅篠原口の再開発地に作る
  • 綱島エリアに公立中学校を新設

横浜市の2017年6月1日現在の有権者数(横浜市選挙管理委員会サイトより)

実現性はともかく、港北区民から熱烈な支持を経て、区の全有権者が投票したとしても28万5000票ほどしかありません。前回選挙での当選者は69万4360票を集めていますので、当選ラインには届きません。

今回の投票率が50%と仮定すれば、全有権者309万1550人の半分「154万5775票」が投じられることになり、3人の有力候補者が立候補した場合、最低でも52万票(三分の一)が「当選ライン(目安)」となります。

港北区の有権者の50%が選挙へ行って“港北太郎”に投票しても14万2538票ですから、当選するためには、足りない分は別の区の有権者から持ってくるしかありません。

港北区に近い“都筑・緑・鶴見”と組んで“4区連合”にしたとしましょう。

  • 鶴見区:234,824票の50%=11万7412票
  • 都筑区:167,035票の50%=8万3,517票
  • 緑区:147,975票の50%=7万3,987票

3区の合計27万4916票+港北区14万2538票=41万7454票

まだ当選ラインの52万票には足りません。では、さらに青葉区や神奈川区も……と、当選のためにどんどん“仲間”を広げていくと、港北区の公約だけを言ってもいられなくなり、次第に“港北区ファースト”を薄めるしかなくなってきます。有権者数が多すぎるため、横浜市全体のことを広く浅く訴えないと、当選が難しくなる現状があります。

そのためでしょうか、これまでに市長選へ出馬を表明している候補者が区レベルでの地域の身近な公約を示しているケースは見られず、「横浜にカジノはいらない」とか「横浜市中期4か年計画2014~2017の総仕上げの年、目標の達成に向けて全力を注ぐ」とか「最高にワクワクする横浜を、つくろう」とか、地域の生活にほとんど無縁ともいえる公約やキャッチフレーズが並んでいます。

東京都知事選挙ではこれまで投票率が40%を割り込んだことはない(東京都選挙管理委員会サイトより)

大いに盛り上がった1年前の東京都知事選挙でも、地域課題を公約に盛り込む候補者はほとんど出なかったのですが、都庁を牛耳っていると名指しされた“悪役”的な人が登場したり、テレビでよく見かける著名人が立候補したり、それをマスコミが取り上げることで、大きな盛り上がりを見せました。なにより、東京都知事は都民と直接的にかかわる基礎自治体ではないため、スキャンダル的な面も含めて幅広い問題を取り上げたとしても、地域の身近な問題は別に「区長」や各「市長村長」の選挙で取り上げることができる仕組みとなっています。

ところが、横浜市は市民に身近な基礎自治体であるにも関わらず、有権者は「カジノのいらない横浜市で、最高にワクワクしながら、中期4か年計画を総仕上げする」といった容易に理解できないような公約(?)と向き合わなければなりません。これでは、多忙なビジネスマンの休日に、投票のために貴重な時間を割いてもらうためのモチベーションになるのか否かは疑問です。

マスコミによる横浜市長選に関する数少ない報道によると、今回の横浜市長選で争点となりうるのは「カジノ(IR=統合型リゾート)誘致の是非」「公立中学校における給食実施の是非」だと言われています。

立候補を表明している新人・長島一由(かずよし)氏の公式サイト

現時点で立候補表明している3氏のうち、新人の2氏はすでに明確にカジノ構想に対して反対姿勢をとっています。

現職の市長については、この1週間ほどの間に公式サイトから政策のページが消去(7月7日現在)されたため、今のところ最新の公約はわかりませんが、これまでの発言からは推進とも言える姿勢を見せていました。

市の最高意思決定機関である「横浜市会」の議事録によると、

IRを導入する意義ですが、IRは、国内外から多くの人を引きつける世界最高水準の文化芸術、エンターテインメント、MICE、ホテルなどの施設を民間の活力を最大限に生かして一体的に整備、運営することができる有効な手法です。都心臨海部の機能強化、観光MICEや文化芸術をより一層推進し、横浜経済の活性化、新たな雇用の創出、さらには本市の財政基盤の強化を図っていかなければなりません。(「カジノについてはいいのですか」と呼ぶ者あり)将来に向けて横浜の成長をより一層確かなものとしていくために、IRの導入は必要と考えております。(「よし」「そうだ」と呼ぶ者あり)」(2016年12月9日の市長答弁)

との記録が残っていました。一方で、

立候補を表明している現職・林文子(ふみこ)氏の公式サイト

「それから、IRの導入でございますが、現在審議継続となっているIR推進法案では、政府はカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行う観点から必要な措置を講ずるとされておりまして、今後、このような事柄についてどう議論されていくのか、引き続き国や法案の動向をしっかりと見きわめながら検討しておりまして、私は、カジノをやるということは申し上げていないので、IRというものが選択肢の一つだと考えているところでございます」(2016年5月27日の市長答弁)

とも発言しており、まとめると「IR=統合型リゾート施設は必要だが、必ずしもカジノをやるとは言っていない」ということのようです。

立候補を表明している新人・伊藤大貴(ひろたか)氏の公式サイト

もう一つ、中学校給食の実施是非については、新人2氏とも実施することを公約に掲げています。

現職は、全中学校で実施している横浜独自の宅配型弁当「ハマ弁」の価格を「限りなく(給食に)近い値段」(2017年6月28日定例会見)に値下げすることで、家庭弁当と“限りなく給食に近い宅配型弁当”を選択できるようにしたい考えです。

立候補を予定する3氏の主張をまとめてみますと、

<争点1>カジノを含んだIR誘致の是非

横浜市が2015年2月に示した「IR=統合型リゾート施設」のイメージ(「横浜市都心臨海部再生マスタープラン概要版パンフレット」より)

・新人2氏:×=明確に反対

・現職1氏:=IRは必要だがカジノをやるとは言っていない

<争点2>公立中学校における給食実施の是非

・新人2氏:=実施すべき

・現職1氏:=給食に限りなく近い形で宅配型弁当を市が提供し、家庭弁当も選択できるようにする

“2大争点”とみられながら、主張の違いが分かりづらい形となっています。東京のようにマスコミが取り上げてくれそうな“悪役”的な人が出てきたり、市の重要な問題が隠ぺいされていたりといったことも、今のところはありません(これは健全で良いことなのですが)。

横浜市は市長選の特設サイトを作って投票を呼び掛けているが……

争点もはっきりせず、今のところ盛り上がる要素も欠けているだけに、ワースト記録だった前回の投票率29%を上回ることができるかどうかさえ心配になります。

たとえ10人に3人しか投票に行かなかったとしても、市民から選ばれた代表者であることに変わりはありませんが、選挙実施には11億円近い税金が投入されています。

身近な課題や話題を取り上げられず、毎回はっきりとした争点も見つからないまま低投票率で行われ続けている選挙。これは、単に無関心な選挙民が悪いのか、それとも制度自体が悪いのか、あるいは横浜市に関わる政治家と一部の政治好き層が悪いのか。ぜひとも今月下旬には意思表示を――。

【関連記事】

<2016年参院選>慶應日吉キャンパス内に初の期日前投票所、7/4(月)・5(火)に(2016年6月22日、横浜日吉新聞)

【参考リンク】

平成29年横浜市長選挙>候補者一覧・選挙公報(横浜市選挙管理委員会)※2017年7月18日追記

横浜市選挙管理委員会の公式サイト

2013年8月25日の横浜市長選の開票結果(投票率29.05%)

2009年8月30日の横浜市長選挙の開票結果(投票率68.76%)※任期途中の辞任により時期変更

2006年3月27日の横浜市長選挙の開票結果(投票率35.30%)