【ST線フォーラムレポート(4)】今月(2022年)8月19日に慶應義塾大学日吉キャンパス内の協生館「藤原洋記念ホール」で行われた「相鉄・東急直通線フォーラム~開業後の“未来を語る”」(ST線フォーラム、一般社団法人地域インターネット新聞社主催)のなかから、今回(第4回)は新横浜地区の牧野内隆さん(一般社団法人F・マリノススポーツクラブ)の講演をお伝えします。
【講演】新横浜地区・牧野内隆さん(一般社団法人F・マリノススポーツクラブ)
皆さん、こんにちは。横浜F・マリノスの牧野内と申します。
新横浜の代表としてしゃべるというのは甚だ僭越ではありますが、我々「横浜F・マリノス」は新横浜にある「日産スタジアム」をホームスタジアムとして活動していますので、白羽の矢を立てていただいたということで、お話しさせていただきます。
本日は我々F・マリノスが地域の中でどんな活動をしているのかということと、新線開業にあたってどのようなことを展開してきたかということを、時間は短いですが、お話しできればと思っています。よろしくお願いします。
まず簡単に僕の自己紹介です。一般社団法人F・マリノススポーツクラブ地域連携本部・ホームタウン・広報担当の牧野内隆と申します。今年37歳です。愛知県名古屋市出身で、大学は早稲田を出ています。なので、普段は港北区がホームのはずなのですが、今日は(会場が慶應大学なので)少しだけアウェイ感を感じています。
社会人になってから電通に入社して、そこで自動車会社を主に担当しつつ、営業として10年間ほど仕事をさせていただいた後に、サッカーに携わりたいということで、横浜には縁やゆかりはなかったのですが、F・マリノスに入社しました。
2021年2月から一般社団法人F・マリノススポーツクラブに出向して、今、活動しています。マリノス入社以来、一貫してホームタウン活動という地域に関わる活動をしています。
スポーツを使ってより活力のある社会へ
僕が今、所属している一般社団法人F・マリノススポーツクラブは何をやっているところかというと、皆さん、マリノスと聞くとJリーグの試合を思い浮かべるのではないかと思いますが、我々はJリーグの試合という興行の部分ではなく、地域の活動をメインに活動しています。
我々の理念は、「スポーツが持つ無限の可能性に挑戦し、地域社会と共に『夢』と『幸せ』、そして『未来』を創出する」ということで3つの柱があります。
「スポーツで繋がる、創る スポーツのチカラで人と人を繋ぎ、地域社会の未来を創るエンジン」ということで、ここはスポーツそのものではなくて、スポーツを使ってより活力のある社会をつくっていこうというところになります。
続いて「あらゆる人に、スポーツを あらゆる人がスポーツを楽しみ、夢を追うことができる環境・機会を創出し、地域社会をスポーツでもっと幸せに」――ここはスポーツの普及の部分です。
単純にサッカーを子供たちに教えようということだけではなく、例えば障害をお持ちの方やご高齢の方など、あらゆる方々にスポーツを楽しめる環境をつくるように我々は日夜活動しています。
最後は「この街から、世界へ、世界で活躍できる選手を育成し、子供たちと地域社会に夢と未来を」という点は、サッカー選手の育成事業です。
スクールやアカデミーと呼ばれる下部組織で未来に世界で戦える選手をつくれるように頑張っています。
このなかで僕は一番上の「スポーツで繋がる、創る」――スポーツを使ってより良い地域をつくるというところで、今、働いています。
試合以外ではホームタウンの皆さんが主役
先ほども申し上げましたが、Jクラブとホームタウン、F・マリノスは横浜市と横須賀市、大和市をホームタウンとしています。
試合のときには僕らはクラブが、主役と言うのはおこがましいですが、主役にならせていただいて、皆さんにクラブを応援していただきたいのですが、Jリーグのホームゲームは年間で17試合、リーグ戦以外の対戦を含めても年30試合に満たないぐらいです。
残りの日はどうするかというと、試合以外ではホームタウン、皆さんが主役で、クラブは皆さんを支える存在、より良い社会をつくるために活動をしている、これがホームタウン活動です。
ホームタウン活動はいろいろなことをやっています。一番分かりやすいのはスポーツ・サッカーの普及・振興です。
昨今、SDGs(エスディージーズ=持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)などがありますが、社会からの要請により、さまざまな範囲が我々クラブのホームタウン活動の範疇になっています。
教育、多様性・多文化理解、まちづくり、地域振興、介護予防、健康増進、環境保護、被災地復興など、ありとあらゆる社会の課題が、僕らがスポーツの力を使って解決するテーマだと思っています。
これはF・マリノスだけではなくてJリーグ全体で取り組んでいます。
「Jリーグをつかおう!社会のために。」――Jリーグ社会連携(通称:シャレン!)という形で、我々以外のクラブも、神奈川県では特に6クラブありますから、どのクラブもそれぞれが地域のために頑張っています。
もし良かったら「シャレン!」と検索していただければ、さまざまなサイトが出てくると思うので、お時間のあるときにぜひ見ていただければと思います。
例えば環境保護など、何でもいいのですが、Jリーグのクラブ、地元企業、行政、学校、住民、NPO、あらゆる地域のプレーヤーの皆さんが一緒になって共通のテーマを解決するために、新しい価値をつくる、良いものをつくる、強みを出し合ってより良い地域をつくっていこうというものになっています。
Jクラブは何が出せるのかというと、僕のようなJクラブのスタッフ、スタジアム、ファン・サポーター、サッカークラブとしての発信力、我々には多くのファン・サポーターもそうですし、スポンサーさんもいらっしゃいます。
そういう方々をつなぐ力、こういったあらゆるリソースを使って、あとは地域の皆さんと協働して新しい価値をつくっていくという活動をしています。
緊急事態宣言下でのホームタウン活動
具体的にどんなことをというと、1つの例ですが、我々は「ホームタウン テイクアウトマップ」というものを2020年4月に公開しました。
この年の4月は最初の「緊急事態宣言」が出て、街から人が消えてしまったことは記憶に新しいかと思います。
そこでデリバリーやテイクアウトできる飲食店の情報、いろいろな団体さんがそういうマップを出されてはいましたが、それをクラブでまとめてマップ化するという活動をしました。
テイクアウトを実施している店舗さん、あとはサポーター、商店街さん、役所さん、あらゆるところから情報をもらって、我々がそれを整理して発信する。
そのことでなかなか情報が届かなかった方々にも我々のファン・サポーターを通じて多くの方に情報が届けられたと思っています。
あとは今、新横浜の“トリコロール化”を行っていますが、駅前やスタジアムの周りを、マリノスは赤白のトリコロールがイメージカラーですので、そのような形で装飾して街に賑わいを創出しています。
こうした活動に日夜取り組んでいますが、課題意識としては、クラブとしてより主体的に取り組んでいかなければいけないと思っています。
貢献というと、僕の中では主体性がないように聞こえてしまいます。もっと牽引する。我々はサッカークラブですが、地域の一員として、まちづくりを引っ張るプレーヤーとして主体性を持って取り組んでいきたいと思っています。
先ほどの「シャレン!」の考え方でもありましたが、より多くの人を巻き込む。地域にはいろいろな強い思いを持った方がたくさんいらっしゃると思っています。そういう方々と手を取り合って、より大きなインパクトを生み出していきたいです。
インパクトということですが、やはり長期的な視点が大事です。アウトカム発想で社会を変える、人々の意識を変えることは一朝一夕にはいかないと思います。ただ、それを諦めるのではなくて継続的にやることで街を変えていくことができたらいいなと思っています。
僕らは会社なので、クラブが主語になりがちですが、そこだけではなくて地域はどうなのか、社会はどうなのかという、主語を変えることも必要だと思います。
最後に、サッカー、スポーツならではの楽しさ。僕らはサッカー、エンターテインメントの領域を強みにしているので、社会課題にアタックするときも「ならではの楽しさ」ができるといいのかなと思っています。
新線の開業で新横浜も「リスタート」
そんななかで来春、新しく相鉄・東急さんが延伸されるということで、新横浜がどうなるかというと、これは勝手に僕が言っているだけですが、新横浜も「リスタート(restart)」なのではないかと思っています。
相鉄さんと東急さんをつなぐ場所が新横浜になると思います。先ほどもありましたが、新幹線が通っていて、新横浜は交通の要所になってくると思います。
人もかなり流入してくると思いますし、変わっていく中で、ここを契機に長期的視点を持ってスポーツの力で新横浜をもっと先進的な街にしたいと思っています。
F・マリノスの視点でいくと、沿線の利用者の皆さんと、新線がによって接点が増えると思いますし、そこに対してうまくスポーツの力を使って、より幸せになってもらいたいという思いもあります。
東急線・相鉄線の皆さんにとっては沿線の価値を高めるために我々を使っていただけると大変ありがたいです。
スポーツはエモーションというか、人々の心に働きかけるものだと思っているので、そういうものを使って地域全体にポジティブなインパクトを与えられるといいのかなと思っています。
例えば、どんなことをやりたいのかというと、これは想像でしかありませんが、今も新横浜には「日産スタジアム」や「横浜アリーナ」があるので、イベントなどで多くの人が来場されます。
それがまたこの開業によって増えてくることを考えると、人の流れや滞留を活用した実証実験をしたりすることも考えられます。
日本でも稀なスポーツに恵まれた街
「あらゆる人がスポーツにアクセスできるまちづくり」とありますが、新横浜の駅から日産スタジアムだったり横浜アリーナだったり、もしかしたら「新横浜スケートセンター」かもしれませんが、そこまで誰もが本当にアクセスできるのか、例えば車椅子のお客さんが安全にそこまでたどり着けますかとか、何かしら障害をお持ちの方が安全にたどり着くにはどうしたらいいかとか、そういうことも含めて整備していけるといいのかなと思います。
特に新横浜駅の北側はスポーツ・エンターテインメントの街だと思っているので、そういうところで、さらなる融合というか、街の皆さんと手を取り合って、そこがもっと溶け込んだ街にできればいいのかなと思っています。
僕らはスポーツ・サッカーをやっていますが、まちづくりのアイテムとして見ていただいて活用してもらいたいですし、力を出していきたいと思っています。
僕も新横浜に住んでいますが、非常に大きなポテンシャルがあると思っています。交通もそうですし、北側はすごく整備されています。「新横浜公園」という日本で有数の公園もあります。
南側はまだ開発途上だと思いますが、大きなポテンシャルがあると思っています。
新横浜には、F・マリノスがいて、プロアイスホッケーの「横浜GRITS(グリッツ)」というチームもあります。スポーツという面でも非常に恵まれた街で、こんな街は日本中、なかなかないのではないかと思っています。
そういうところを生かして我々F・マリノスが旗を振る形で、日本で最もスポーツが溶け込んだ街にしていきたいです。
今回の新線の開業がその1つの契機になればいいなと思っています。ありがとうございました。
<フォーラム後の一言>
皆さんのお話を聞かせていただいて、あらためて各地区が非常に魅力的な街だなと思いました。
また、新線の開業が各地区への魅力をつなぐものとしてワークしていけばいいなと思っています。
そのなかで我々マリノスはハブとなる新横浜に居を構えていますので、“交差点”に居を構えるものとして、まちづくりを引っ張っていければいいなと思っています。本日はありがとうございました。
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(※全9回にわたる「ST線フォーラムレポート」の一覧はこちらをご覧ください)
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