【コラム】2019(平成31)年に横浜・川崎の両市から華々しく発表された横浜市営地下鉄ブルーラインの新百合ヶ丘駅への延伸計画。それから6年、開業目標として示した2030年(令和12年)まで残り5年に迫るなか、現在も工事が始まる気配がありません。どうなっているのでしょうか。
この延伸計画は、2019年1月に横浜市都市整備局と横浜市交通局、川崎市まちづくり局の3者が最初に発表しています。

2020年1月に横浜市と川崎市が発表した延伸区間の概略ルート(約6.5キロ)、途中の青葉区嶮山(けんざん)、青葉区すすき野、ヨネッティー王禅寺(麻生区、市道尻手黒川線近く)の3カ所付近に新駅を設ける計画としている(2020年1月21日「横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸『あざみ野~新百合ヶ丘』概略ルート・駅位置が決定しました!」より)
ブルーラインが終点とするあざみ野駅(青葉区あざみ野)から小田急線・新百合ヶ丘駅の南口付近(川崎市麻生区)まで区間を地下トンネルで新たに整備。横浜市と川崎市で相互に連携・協力し、横浜市交通局を運営主体として2030年の延伸開業を目指すとの内容でした。
それから1年後の翌2020年1月には、新百合ヶ丘駅南口までの途中に設ける3駅の位置について、「青葉区嶮山(けんざん)付近」「青葉区すすき野付近」「ヨネッティー王禅寺(川崎市麻生区のプール・老人施設)付近」とする概略ルート(約6.5キロ)を公表。
事業費は約1720億円で、新百合ヶ丘とあざみ野間を約10分(現在約30分)、新百合ヶ丘と新横浜駅間を27分(現在約35分)で結ぶ計画としています。
発表直後の2020年2月から日本でも新型コロナ禍の影響が大きくなるなか、同年6月には横浜市が環境影響評価手続に着手したことを発表。
この時点では、延伸へ向けた手続きが順調に進んでいることをうかがわせましたが、2020年6月を最後に横浜と川崎の両市から市民へ向けた直接の情報発表は途絶え、すでに5年が経過しました。
上昇する予算額、断念の気配は見えず
この間、横浜市は延伸に関して毎年1億5000万円を超える予算を組んでおり、最新の2025年度予算案では2億1849万円を計上するなど右肩上がりで伸びており、現時点で事業を断念する気配は見られません。
では現状はどうなっているのか。横浜と川崎の両市議会では、議員が市当局や横浜市交通局に対して状況を問う質問が何度も行われています。
「(完成目標とする2030年まで)あと5年、誰が考えても、来年度から着工したって厳しい。市民だって分かっているんです。横浜市営地下鉄の信用にかかわる問題だと思いますので、早急に現実的な話をきちんと出し、対応策を提示すべきだと思う。交通局だけでなく市全体として考えてください」(2025年6月2日、横浜市会「下水道河川・水道・交通委員会」での議員質問)
「地下鉄3号線(※ブルーライン)が本当に延伸になるのか。もちろん川崎市はしたいし、やってもらいたい。だけれども、実際、まだちっとも横浜市さんからお返事が来ないということで、これがあるということを前提に全てが回ってしまうと、万が一なくなったときにどうなっちゃうのというところがあるので、その辺は、プランA、プランBみたいに考えていけるのか」(2024年11月21日、川崎市議会「まちづくり委員会」での議員質問)
市議のこうした質問に対し、両市当局の見解はほぼ同じ内容で、代表的な答弁は次のようなものです。
「昨今の物価高騰、それからコロナの影響によります鉄道需要の減少という状況がございます。これは3号線延伸の事業化を判断した当時では想定していなかった課題に今ぶつかっているということでございます。その対応をどうしようかということで検討に時間を要しておりますが、交通政策審議会の答申の目標年次は令和12年(※2030年)開業目標ということに設定しております。ただ、先ほど申し上げましたように事業を取り巻く環境は大変厳しい状況となっておりますけれども、コスト削減、あるいは委員から御紹介があったまちづくりとの連携によって需要を創出していくということもしっかり検討しながら進めていきたいと考えております」(2024年10月2日、横浜市会「令和5年度決算第一特別委員会」での副市長答弁)
市側としては、2019年に事業化を判断した際には、2020年2月以降の新型コロナ禍を機とした鉄道需要の減少に加え、建設費・物価の高騰も予想ができず、それらへの対応に時間がかかっている、というのが公式の見解です。
事業を推進するとの立場は現在まで変えていない一方、2030年の開業目標に間に合うのか遅れるかについての質問には明確に回答していません。
大きな課題は需要減や費用高騰
昨年(2024年)3月、川崎市麻生区から選出されている川崎市議が横浜市議とともに横浜市当局にヒアリングしたという詳しい現状について、議会質問の機会を使って報告。当局の直接発言ではなく、市議による伝聞の形ですが、現時点で着工に踏み切れない背景を詳しくレポートしています。
「この運輸収入に大きな影響をもたらすコロナの影響による働き方の変化は定期券収入の減につながるとともに、沿線の将来人口も減少の方向に転じていくという予測がなされていまして、令和8年(※2026年)には運賃収入が戻るという予測で計画を立てられていたんですが、残念ながら、今の段階では、やっぱりそれが計画どおりには進んでいかないという状況もあります。また、建設資材の高騰、人の不足による人件費の高騰をはじめ、電気料金も、地下鉄は電気で走りますから、令和2年(※2020年)で比べると2倍に膨れ上がっちゃっているんですね。さらに、先ほど申し上げた(※新型コロナ禍の資金繰り対策などで横浜市交通局が発行した)企業債償還金の負担が重くて、資金不足が大幅に拡大すると」(2024年3月5日、川崎市議会「予算審査特別委員会」での議員質問)
そのうえで横浜市側の対応については次のように述べます。
「これらの課題解決については収支不足が緩やかになるための手法の選択と、それから、インバウンド観光の拡大による収益増、延伸事業による魅力あるまちづくりの検討といったものが鉄道事業法の免許を取るには必要な項目として、当然横浜市はやっています。(略)鉄道事業許可取得後、速やかに詳細設計に入るための深度化がなされていることが確認できています」(同)
同川崎市議はこのように報告し、延伸されることを前提に川崎市はまちづくりの準備を進めておくべきだという質問内容でした。
設計面については、今月6月2日の横浜市会「下水道河川・水道・交通委員会」の場でも「少なくとも交通局においては、事業許可がいただけたらすぐにでも事業に着手できるように、もろもろの設計の深度化といったようなことを今年度も続けているという状況」(交通局長答弁)と明かしており、経営面の課題解決とは別に鉄道建設へ向けた技術的な作業は進めていることがうかがえます。
一方で延伸にかかる事業費や経営面では、新型コロナ禍を機とした需要の落ち込みと建設費の高騰といった課題を解決できるような好要素や、解決へ向けた前向きな話題がおおやけの場で明かされたことはありません。
市の中心部からは離れながらも、人口が多く、平均寿命が全国有数の高さを記録するなど街の雰囲気も似ている横浜・川崎両市の北部エリア。
そんな両エリアを結ぶ鉄道計画は、2020年6月以降の5年間にもおよぶ“沈黙状態”を脱し、そろそろ着工に踏み出すことができるのでしょうか。
【関連記事】
・新横浜~新百合ヶ丘は27分、「ブルーライン」延伸で途中駅のルート公表(2020年1月22日、この時点から目に見える動きは少ない)
・ブルーラインがつなぐ“長寿区”、平均寿命が長い青葉・都筑・港北から麻生へ(2023年5月17日、全国的に長寿の区が目立つ)
【参考リンク】
・「高速鉄道3号線の延伸(あざみ野~新百合ヶ丘)」についてのページ(横浜市都市整備局、進捗状況も)
・「94.横浜市営地下鉄3号線あざみ野~新百合ヶ丘間(横浜市域) 環境影響評価手続」(横浜市みどり環境局、環境アセスメントに関する手続きも2020年9月の「配慮書」の段階で止まっている)
・横浜市高速鉄道3号線(ブルーライン)の延伸「これまでの取組状況」(川崎市まちづくり局、川崎市側も2020年で動きが止まっている)