港北区など横浜市内17区(西区の中央図書館を除く)の図書館に対し、(1)老朽化対策やリニューアル、(2)再整備・中規模化、(3)大型館の新設――という3つの可能性が示されています。
横浜市教育委員会は、市立図書館全体の再整備などを行うにあたり、この先10年程度の考え方を示したという資料「今後の市立図書館再整備の方向性」を今月(2024年)12月12日の横浜市会「こども青少年・教育委員会」の場で公表しました。
同資料によると、市立図書館の再整備で柱となるのは次の3つです。
(1)市立図書館の再整備・機能拡張
→リノベーション(老朽化対策)、再整備(中規模化/大型館新設)など
(2)図書サービスへのアクセス性の向上
→地区センターとの連携を含めた「図書取次拠点」の増設、物流拠点の整備など
(3)デジタル技術の積極導入
→電子書籍の拡充、AI活用、管理運営の効率化と利用者サービス向上など
このなかで注目されるのが(1)の「市立図書館の再整備・機能拡張」で、各区に置かれている図書館の建て替えや再整備の可能性について考え方を示しています。
再整備できない区では館内を刷新
市教委が具体的に示したのが、(1)老朽化対策・リノベーション、(2)建て替え・再整備による中規模化(延床面積5000平方メートル程度)、(3)新たな大型図書館の整備(1万~2万平方メートル程度)――という対応策です。
(1)は短期的にできる対応策として、現状の図書館のまま館内を刷新したり、デジタル技術を導入したりして、利用者の居心地や利用のしやすさを向上させようというもの。スペースの大幅な拡張は難しい一方で、再整備と比べると比較的短期間で対応が可能です。
(2)がいわゆる図書館の“建て替え(再整備)”で、誰もがアクセスしやすい駅前など交通利便性の高い場所を探し、平均で延床面積が2000平方メートル弱というスペースしかない17区の図書館を3000~5000平方メートル程度まで拡張しようとしています。
現在、鶴見区では鶴見駅西口近くにある豊岡小学校の建て替えにともなう複合施設化により、鶴見図書館(築44年)を移転再整備する計画が進行。同図書館は1500平方メートル超のスペースしかありませんが、再整備により3倍超の5000平方メートル程度まで拡張できる予定です。
鶴見区は主要駅に近い小学校の建て替えという絶好のタイミングをとらえ、図書館の再整備計画も盛り込んだものですが、他の区でそうした好機が訪れるのかどうかが焦点です。
この10年程度の間に再整備や建て替えが難しい場合の対応策として、まずは(1)の館内刷新などを行うとの考え方が示されました。
中央と並ぶ「大型館」に物流拠点
(3)の「新たな大型図書館の整備」は、西区の中央図書館(延床面積約2万平方メートル)とは別に大型図書館(同1~2万平方メートルを想定)を新たに建てようというもので、電子書籍なども含めた最新の多様なメディアを取り入れ、“知の拠点”にしたいといいます。
また、新大型図書館の重要な役割に「物流機能」があり、現在は中央図書館の館内で担っている図書の配送などの機能を新大型図書館に移す計画です。
市教委では「図書取次拠点」の増設を積極的に行っていく方針が示しており、今後も図書輸送量はさらに拡大する見込み。その対応を新大型図書館で強化したい考えです。
なお、中央図書館については、今後も市立図書館の“司令塔”的な役割を担うとともに、施設面では「のげやま子ども図書館」(旧レストランスペースを活用)の新設などの改修が順次進められています。
築64年の「港北図書館」をどうする?
【コラム】今回、市教委から今後10年の方向性が示されましたが、具体的な建て替え(再整備)対象や、新大型図書館の建設場所はまだ未発表の状況です。
“1区1館”という基本方針を崩さず、中央図書館(西区)も存続させるなかで、新大型図書館をどこの区に整備するのかは多くの市民が注目するところ。
横浜市民の誰もがアクセスしやすい中心部となれば、横浜駅やみなとみらい地区が位置する西区か中区、もしくは横浜駅に近い神奈川区しかなく、1区1館という基本方針をねじ曲げてでも中心部の区に2館を置くのかどうか。
一方、36万5800の港北区民としては、1960(昭和35)年10月に完成した旧港北区役所庁舎を改造して使い続ける“市内最古館”となった「港北図書館」(菊名6、延床面積2372平方メートル)をどうするのかがもっとも大事な点です。
図書館再整備のきっかけとなりそうな駅前再開発(まちづくり)の議論は、綱島駅東口(都市計画決定済み)や新横浜駅南口(篠原口)(再開発準備組合設立済み)、菊名駅東口(まちづくり協議会結成済み)の区内3カ所で進行中です。
また、新横浜駅前の新横浜2丁目(西広場隣接地、旧交番となり)には市財政局が約2800平方メートルの土地を保有しており、これまでは相鉄・東急新横浜線の工事用地として使われてきましたが、開業によりその役割を終えています。
一方、港北図書館の建物は、旧横浜市庁舎(関内駅前)も設計した著名な建築家・村野藤吾(とうご)氏(1891~1984年)の「村野・森建築事務所」が設計を手がけており、完成から64年を経た今も現役で残されていること自体に価値があるという声も聞かれます。
どのような形なら港北図書館の機能拡張や規模拡大が叶うのか。再整備は構想から竣工まで少なくとも10年程度の月日を要すると言われているだけに、早期に具体的な方向性の提示が望まれます。
(※)この記事は「新横浜新聞~しんよこ新聞」「横浜日吉新聞」の共通記事です
【関連記事】
・<市教委>港北図書館など古い5館の現状を調査、“狭く席数も大きく不足”(2024年10月15日)
・<横浜の図書館ビジョン>今後も「1区1館」は変えず、取次所や機能拡充に前向き(2024年2月26日)
【参考リンク】
・横浜市教育委員会「今後の市立図書館再整備の方向性」(PDF、横浜市会「こども青少年・教育委員会」資料、2024年12月12日)
・横浜市図書館ビジョン(2024年3月発表、10~20年後を見据えた図書館像をまとめたもの)