【ST線フォーラムレポート(6)】今月(2022年)8月19日に慶應義塾大学日吉キャンパス内の協生館「藤原洋記念ホール」で行われた「相鉄・東急直通線フォーラム~開業後の“未来を語る”」(ST線フォーラム、一般社団法人地域インターネット新聞社主催)のなかから、今回(第6回)は東急株式会社・関口哲也さん(プロジェクト開発事業部統括部長)の講演をお伝えします。
【講演】東急株式会社・関口哲也さん(プロジェクト開発事業部統括部長)
これより東急株式会社の沿線のまちづくりの取り組み、相鉄・東急直通線エリアにおけるトピックスについてご紹介いたします。
私は本日ご説明をさせていただく東急株式会社プロジェクト開発事業部・開発第2グループ統括部長の関口哲也と申します。よろしくお願いいたします。
最初に当社の事業概要をご説明します。当社は鉄道を中心とした「公共インフラ事業」、「都市開発事業」、「生活サービス事業」の3つの事業を中心に、沿線にお住まいの皆様にとって、より暮らしやすい街を目指して各事業に取り組んでいます。
この日吉エリアにおいても、リテール部門の東急百貨店が運営する「日吉東急アベニュー」を中心に、サテライトオフィス事業の「NewWork(ニューワーク)」(2店舗、日吉本町1)、学童保育事業の「キッズベースキャンプ」(箕輪町1)を展開しています。
日本において2020年1月に初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されてから2年以上が経過しましたが、この間に皆様の生活様式が大きく変わったことと思います。
当社においても例外ではなく、「まん延防止等重点措置」の適用に伴い鉄道輸送人員が著しく落ち込み、その後、徐々に回復しているものの以前のような状況には戻っていません。
「新しい生活様式」に合わせた取り組み
そのようななか、新しい生活様式に合わせ、さまざまな取り組みを行ってきましたので、次にご紹介します。
まず法人向けサテライトオフィス事業の「NewWork(ニューワーク)」です。
新型コロナ感染症の拡大以前に2016(平成28)年からリモートワークの増加に合わせ拠点を増やしてきましたが、在宅勤務やリモート会議などの需要の増加に伴い、提携店も合わせ現在全国で380拠点以上に拡大し、法人450社以上にサービスを導入いただいております。
NewWorkは日吉でも2拠点を構えており、皆様にご愛顧いただいています。
また、NewWorkではご利用いただいたお客様が地域の飲食店や商業施設をご利用いただけるよう、専用アプリを通じて各種クーポンを配布するなど、地域の魅力をお客様に感じていただけるような工夫を行っています。
次に田園都市線の青葉台駅にある「青葉台郵便局」のリノベーションプロジェクト「SPRAS(スプラス)青葉台」をご紹介します。
リモートワークの推進により、地元に滞在し地元で過ごす時間を選ぶ人が増えるなか、「SPRAS青葉台」では快適な仕事環境を整えたワークラウンジ、読書や学びの時間、語らいの時間に最適なコミュニティラウンジをご用意し、皆様が大切にしたい過ごし方ができる場所を目指しています。
この取り組みは横浜市様と当社が共同で取り組んでいる「次世代郊外まちづくり」で目指している街の姿「コミュニティ・リビング」の推進を目的としています。
また、定期的に地域住民の方を中心としたイベントが開催されており、新たな出会いやつながりが生まれています。
SPRAS(※スプラス=芽生えを意味する「Sprout(スプラウト)」に地域の「プラス」になりたいとの思いを込めたもの)という名前の通り、この場所でさまざまな人が出会い、新しいことが生まれ、新しい自分の発見や自己実現につながるなど、地域の方々のプラスになるような拠点を目指していきます。
そのほか、全国の宿泊施設を一日単位で旅するように暮らすことができる定額制回遊型住み替えサービス「tsugi tsugi(ツギツギ)」の実証実験の取り組みや、賃貸住宅なのですが、入居者が家に帰らない日は自分の部屋をホテルとして貸し出すことによって家賃が減額される多拠点生活多拠点生活・居住者向けのサービスアパートメント「Re-rent Residence(リレントレジデンス)渋谷」など、多様なニーズにお応えできる住まい環境を積極的に提供し、さまざまな価値観を持った方々が沿線にお住まいいただけるよう取り組んでいます。
1984年以来となる新駅、新綱島と新横浜
社会情勢が目まぐるしく変化するなかで、当社の沿線環境も大きな変化を迎えようとしています。
2023年3月に開通が予定されている「東急新横浜線」においては新綱島駅、新横浜駅の2つの駅が新たに開業する予定です。
この2駅は、1984(昭和59)年4月に開業した中央林間駅(田園都市線)以降、約40年ぶりの新駅で、東急電鉄が運営する駅は2駅増えることで合計99駅となります。
開通によって、渋谷駅と新横浜駅の間は乗り換えなしの約30分で到着することができ、東急線沿線エリアの交通利便性、都心エリアとの連携性が向上、さらなる沿線価値の向上が見込まれます。
2つの新駅周辺で進む「まちづくり」
新綱島周辺エリアについては、2023年3月に開業予定の新駅整備と合わせて、横浜市施工の土地区画整理事業と一体施工で「新綱島駅前地区第一種市街地再開発事業」が推進されています。
この事業によって綱島街道をはじめとする車道や歩道の拡幅、バスやタクシー乗り場、公共駐輪場、交流を育む広場など、街のインフラが整備されます。
さらにさまざまな周辺開発により商業施設や住宅などが整備され、より便利で賑わいのあるまちづくりが展開されます。
当社はこの再開発事業に権利者および参加組合員として参画しており、新駅周辺にふさわしい賑わいの創出や新たな文化・芸術活動の場となる「区民文化センター」の設置、周辺地域のさらなる安全・快適性に寄与するまちづくりを再開発組合の皆様と一緒に推進しています。
なお、本事業は新綱島駅開業から約半年後の2023年10月に竣工する予定です。
新横浜駅周辺では2018(平成30)年に設立された「新横浜駅南口駅前地区市街地再開発準備組合」に日鉄興和不動産株式会社とともに事業協力者として参画しています。
現在、準備組合の皆様と生活に欠かせない下水道や道路の整備・改善など、街の課題の解決を図るとともに、地域にとって安全性・利便性が高く、人に優しい職住近接街区の創出を基本方針に掲げ、住宅や生活利便施設の整備を検討しています。
公共交通と都市開発で今年が100周年
最後に当社のまちづくりのルーツについてお話しします。
東急株式会社の源流は、1918(大正7)年に渋沢栄一を発起人として誕生した田園都市株式会社にあります。
都市の過密化という社会課題を憂いた渋沢栄一は、当時、英国レッチワース(Letchworth=ロンドン郊外)で喧伝されていたエベネザー・ハワードによる「田園都市論」をみずから日本流に解釈し、郊外の緑豊かな住宅地から都心へ電車で通勤するという生活スタイルを世に提示しました。
田園都市株式会社の鉄道部門を別会社として、1922(大正11)年9月2日に設立されたのが「目黒蒲田電鉄株式会社」であり、現在の当社へつながっています。
おかげさまで東急グループは今年(2022年)、100周年を迎えることとなります。
その後、社会課題の解決というテーマは五島慶太に引き継がれ、第二次世界大戦後、東京圏の住宅不足と生活環境の改善のため、川崎市および横浜市の北部地域において交通路の建設と合わせて新たな田園都市を建設すべく1953(昭和28)年に「城西南地区開発趣意書」を発表しています。
この計画が後に地域の皆様とともに進めることとなる多摩田園都市の開発へとつながっています。
このように当社は公共交通の整備と都市開発の2つをルーツとし、互いに成長のエンジンとなることで、これまで発展してきました。
まちづくりを通じて社会課題に向き合い、新しい価値を提供すること――それが私たち東急のDNAです。
過密した都市が抱える課題に向き合う
このような開発を進めてきた結果、当社沿線エリアでは2011(平成23)年比で武蔵小杉を筆頭に渋谷区、品川区、目黒区において、生産年齢人口が増加している傾向を読み取ることができます。
当社沿線に住まう方が増えているという喜ばしい結果ではありますが、同時に過密した都市が抱える課題に対し真摯に向き合うことで、沿線にお住まいの皆様にとってより住みやすい環境をご提供していく必要があると考えています。
そして東急線沿線では、これまでは2020年に人口のピークを迎える予測でしたが、最新のデータでは2035年まで人口の増加傾向が続く予測となっています。
全国や1都3県に比べれば人口減少のペースは緩やかではありますが、従来通りのまちづくりからの変革を求められている時期とも考えられます。
多様化する生活、「移動の再定義」が必要
一方で当初の開発から時を経ていくなかで、お住まいの皆様の高齢化や施設の老朽化による生活利便性の低下も喫緊の課題と認識しています。
また、沿線周辺の交通環境に目を向けると、ここ数年、新規道路網が開通し、また今後も開通が予定されている路線、新たな交通網によって、さらに沿線の利便性向上を目指していきます。
一方、通勤・通学などで必ずしも移動をする必要がなくなった社会のなかで、あえて移動する理由をつくっていくこと、お客様に選んでいただく沿線になるための魅力づくりも、私たちまちづくり会社の使命であると考えています。
従来は都心のオフィスなど日中の活動拠点と日々の生活拠点を結び、沿線の皆様に移動していただいていましたが、これからはより多様化・複層化するお客様の生活様式に合わせ、移動を再定義していく必要があります。
今後、当社の目指す沿線のまちづくりは、各地域の地域資源を活用しながら、より魅力的で住みたくなり訪れたくなる街を目指し、またそのエリアを各交通網で結ぶことで次世代自律分散型のまちづくりを推進していきたいと考えています。
引き続き当社をご愛顧いただきますよう何卒よろしくお願いします。本日はご清聴いただきまして、ありがとうございました。
<フォーラム後の一言>
本日は地域の皆様のいろいろなお話や、先生方の貴重なご意見などを伺うことができて非常に勉強になりました。
今後、現在も開発を進めている地域や、これから進めていくなかで、参考にさせていただけるような、また連携させていただけるようなことが、たくさんありそうな気がしています。これからも引き続きよろしくお願いしたいと思います。本日はありがとうございました。
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(※全9回にわたる「ST線フォーラムレポート」の一覧はこちらをご覧ください)
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