新横浜・菊名・大倉山・新羽など港北区南部の地域情報サイト
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地域の熱意と善意と笑顔が詰まった10年です。菊名や錦が丘、篠原北、富士塚、大豆戸エリアに「菊名おでかけバス」を定期運行している地域団体「コミバス市民の会」(事務局:錦が丘、入江勝通共同代表)は、運行開始から10周年を記念した集会を先週(2021年)11月12日に開き、運行を支えるボランティアが活動を振り返るとともに、利用者からは感謝と期待の声が届けられました。

路線バスのない錦が丘や富士塚など坂の多い住宅街で活躍する「菊名おでかけバス」

「菊名おでかけバス」は、坂道の目立つ住宅街から菊名駅3つのスーパー・ホームセンター、区役所や図書館・地区センターなどを結ぶルートを一周する会員制の地域コミュニティ交通

菊名駅西口を起点に篠原北や錦が丘、篠原八幡神社、富士塚通りを経て妙蓮寺駅近くの「オーケー妙蓮寺店」付近で折り返し、復路便では錦が丘ロータリーから菊名駅東口・大豆戸町方面へ向かい、菊名神社前や「オリンピック大倉山店」裏の旧綱島街道を経由港北公会堂(区役所)付近で綱島街道に移り、港北図書館や「サミットストア菊名店」を経て菊名駅西口付近までを走ります。

菊名駅西口を起点に30超のバス停を設けて細かく巡回していく(案内パンフレットより)

2011(平成23)年1月にスタートし、2021年11月現在は毎週火曜日に7便(ルートを7周)を運行。利用は年間1000円の会員制で、初回利用時の入会も可能としています。

運行は地域住民が2006(平成18)年7月に結成した「コミバス市民の会」ボランティアで行っており、大雪に見舞われた日や昨年(2020年)の第1回緊急事態宣言期間(4月~5月)は運休したものの、東日本大震災(2011年3月)の直後で乗客が現れなかった日も含め、10年超にわたって週に1回の運行を継続してきました。

定期運行が始まったのは10年前ですが、それ以前も複数のワークショップ開催や横浜市営バスを使った試行など、2000年代初頭から20年以上にわたる地道な活動があったといいます。

「市バス」を借りて錦が丘などで試運行

11月12日に10周年の記念集会が開かれた

菊名駅西口近くにある地域交流拠点「きくなみんなの広場」(錦が丘)で開かれた10周年の記念集会では、3人いるコミバス市民の会共同代表の一人である入江勝通さんが「この間の活動をまとめるとともに、今後も心を合わせて先へ進み、楽しくこの地域を創り上げていくための集いにしたい」とあいさつし、オンライン参加を含めて約30人集まった来賓やボランティア、会員利用者がそれぞれ活動や関わりを振り返りました。

「10周年記念誌」が発行され、運行前後の歴史をまとめている

コミバス市民の会の前身は、1998(平成10)年10月に結成された「横浜環境フォーラム」という団体。当時は高架道路として構想されていた高速「横浜環状北線」(第三京浜港北IC~新横浜~馬場~生麦、2017年3月に地下道路として完成)に疑問を持ち、環境問題を考えるなかで地域の移動手段としてのコミュニティバスに着目したといいます。

2004(平成16)年7月レンタカーのワゴン車を借りて手探りで始めた試運行は、実施の度に利用者が増加。コミバス市民の会発足2年後の2008(平成20)年10月に行った4回目の試運行では、約90万円かけて横浜市営バス2台を運転手付きで借り、2つのルートで1日8便を3日間連続で無料運行し、計1348人が利用しました。

当時、コミバス市民の会の事務局長をつとめていた茂呂秀宏さんは「(バス路線の無い)錦が丘のロータリーを市バスが通っている、その感動は今でも忘れられない」と振り返ります。

採算合わず「自分たちの車で運行しよう」

2008年10月の試運行では錦が丘などの住宅街に市バスの車両を走らせ、3日間で1348人が利用した(10周年記念誌より)

大規模な試運行によって、住民からはコミュニティバス定期運行への期待が高まったものの、実際には市交通局などのバス事業者へ運行委託する形では採算がまったく合わず、協賛金の出資も上手く進まなかったため、同会では計画を断念しなければならない状況にまで追い込まれていました。

「世話人が喧嘩寸前になるまでコロラド(菊名西口駅前の喫茶店)で議論を続け、最終的には『初心に戻り、自分たちの車を使って自分たちで運転しよう』という結論にいたった」(茂呂さん)

この頃から「錦が丘町内会」の役員らもコミバス市民の会の活動に加勢。ボランティアの体制づくりをはじめ、運行形態やルートの再検討、二度にわたるワークショップ開催と、5回目となる2010(平成22)年9月の試運行といった入念な準備を経て、翌年1月の定期運行開始にこぎ着けています。

ワゴン車の提供が「定員問題」を解決

現在も使われている8人乗りワゴン車が導入される前は普通乗用車で運行していた(案内パンフレットより)

定期運行からしばらくはコミバス市民の会のメンバーが所有する普通自動車を使っていた「菊名おでかけバス」ですが、乗降をサポートする添乗ボランティアと運転手を除くと定員は3人4人目の乗客が現れると、添乗ボランティアが車を降り、次に乗客が降りるバス停まで自力で走って合流することもあったといいます。

運行翌年には神奈川新聞の報道をきっかけに、周辺地域の黒澤一雄さんが「お年寄りの方が普通乗用車に乗りづらそうにしている姿を見ていた。(所有している)ワゴン車なら8人乗りだし、早朝野球の時くらいしか使用していなかったので、壊れるまで使っていただければ」として提供を申し出て以降、ワゴン車による運行となりました。

記念集会では過去のノウハウも共有した

菊名おでかけバスの“知恵袋”として活動を支えてきた錦が丘町内会の元会長・矢部満雄さんは、「黒澤さんからワゴン車提供の話があった時は飛び上がって喜んだ。地域のみなさんの善意がバスを走らせている。本当にありがたい」と振り返ります。同町内会の現会長・伊藤明男さんも「困った人を助けたいという多くの思いが継続への力となっている。私自身もバスを利用させていただき、大変ありがたいと感じた」と話しました。

近年は決められたルートでの定期運行だけでなく、地域のイベント時や地域活動の場などへの“臨時運行”も行っており、今年は新型コロナウイルスワクチンの接種会場である港北公会堂への送迎も担いました。

菊名駅西口に近い錦が丘にある「菊名みんなのひろば」(左側の家)と「おでかけバス」

富士塚自治会副会長・神谷(こうや)敏明さんは、「新型コロナ禍で外出機会が少なくなったなか、ワクチン接種時にも車を出していただき、富士塚の住民から『助かった』との声が届いている。自治会としても、おでかけバスの運行に協力していきたい」と感謝の意を示します。

また、地域のまちづくりや交流拠点との連携も活発で、「菊名みんなのひろば」を錦が丘に開設し、バスの待合所とするなど運行を支えてきた一般社団法人「菊名植村のさと」代表の植村允勝さんは、「コミバス市民の会には、ワークショップを開催していただいたり、バザーでここの存在を広めてもらったり、大変力になってもらった」と振り返りました。

乗客との会話から力もらうボランティア

運転手と乗降を補助する添乗ボランティアの2人1組で運行している(2016年)

現在、菊名おでかけバスの運行現場は、8人いる「運転ボランティア」と、乗降を補助する7人の「添乗ボランティア」が担い、運転ボランティアのうち5人は添乗ボランティアも兼任しているといいます。

運転ボランティアは「月に1回から3回、1日に3時間から5時間運転している」(知久正夫さん)といい、「乗客の人と話をするのが一番楽しい」(蜂谷隆さん)。錦が丘の掲示板を見てボランティアに志願したという遠藤教一さんは「かれこれ7年つとめてきて、地域で知り合いができた。菊名ドライビングスクールで講習も受けさせていただき、日常でも安全運転につとめるようになった」と話します。

添乗ボランティアの細やかなサポートに対する感謝の声は多い

添乗ボランティアの須賀祥枝さんは、「月に2回ほどボランティアさせてもらっており、人生の先輩の話を聞いて自分が前向きになる力をもらっている」といい、車内での会話を通じ「地域のお店や病院の情報は網羅できるようになった」と笑います。清水弘子さんも「色んな方とお目にかかれる添乗の時間は本当に楽しい」と充実している様子です。

また、菊名おでかけバスの黎明期に運転や添乗などの現場を支えてきた「リタイア組」(共同代表の山田平保さん)だというベテランの3人が「運行管理ボランティア」として、連絡役やトラブル時の解決役を担い、見えないところで安全運行を支えます。

高齢層の外出や子育て層も移動に利用

「菊名おでかけバス」の利用者として会員登録しているのは約90人いるという(案内パンフレットより)

利用者として会員登録しているのは約90人で、「会員の半分くらいは、実際におでかけバスを利用しておらず、会費を通じて活動を支えていただいている」(山田さん)といいます。

港北区社会福祉協議会からの助成金も活用しており、区社協は「バスのなかの人と人とのつながりという部分をこれだけ長く維持していただいており、敬服している。できる協力は行っていきたい」(事務局長・島本洋平さん)。

主な利用者はバスルート上に住む高齢層となっており、大豆戸ケアプラザ所長の櫻井敦也さんは「利用者からの相談には『外出が難しい』という内容も多いだけに、おでかけバスは貴重な“足”になっている」と指摘します。

子育て中の利用者もおり、篠原町の小川莉奈さんは「体重が7キロ近くある息子を抱っこして歩くのは大変で、電柱に貼ってあったバスの時刻表を見たことをきっかけに利用を始めた。『(菊名駅西口の子育て支援拠点)びーのびーの』や『(妙蓮寺のスーパー)オーケー』へ行く際に毎週使わせていただいており、感謝している」と話しました。

住民主体の「先進事例」は県内に広がる

菊名駅西口に設けられている「菊名おでかけバス」のバス停

鉄道や路線バスでは担えない地域の移動手段を住民が主体となって確保した菊名おでかけバスの取り組みは、「先進事例」として他の地域にも影響を与えています。

送迎ボランティアの育成を行うNPO法人「かながわ福祉移動サービスネットワーク」で事務局長をつとめる石山典代さんは、「神奈川県と協働した外出支援ボランティア養成講座の受講生が菊名おでかけバスでスタッフとなって学んだり、セミナーで取り組みを発信していただいたりしている。横浜市内では西区の藤棚や旭区の左近山、県内では綾瀬市や茅ヶ崎市、平塚市など、色んな地域で菊名おでかけバスのノウハウは広がっている」といいます。

港北区内の他地区からも注目を集めており、篠原地区で連合自治会の会長をつとめる川島武俊さんは、「(新横浜駅寄りにある)グリーンコーポ篠原に住んでおり、住民の高齢化も進んでいるので、菊名おでかけバスが(ルート上で丘の上にある篠原八幡神社から)下の篠原町側まで降りて来てくれないだろうか、と長年願っていた。私たちも菊名おでかけバスを参考にしていかなければ」と話していました。

記念集会には来賓やボランティア、会員利用者などオンライン参加も含め30人が参加した

コミバス市民の会で共同代表をつとめる山田さんは、「運転や添乗時間は細切れにするなど、生活のなかで過重な負担をかけない形のボランティア活動としたことで、ひずみなく続けられた」という一方、「バス停の設置や駐車スペースの提供など、地域の細かな支援と温かい目によって支えられている」と地域からの協力の重要性を口にします。

近年は、交通・移動のIT化を意味する「MaaS(マース)」という言葉のもと、国をあげてIT化による地域の移動手段確保や円滑化を目指す動きが活発化していますが、菊名おでかけバスのように地域の地道な努力と熱意によって築いてきた“移動コミュニティ”は、IT化だけで一朝一夕に実現するのは難しいことを物語っているのではないでしょうか。

なお、今月11月21日(日)港北図書館前の広場で2年ぶりに開かれる地域イベント「秋のミニらくらく市2021」(10時~13時)では、菊名おでかけバスもブースを出店してPRを行うとのことです。

【関連記事】

坂の多い菊名西口の錦が丘や篠原北、住民が本気になれば「バス」さえ運行できる(2016年12月11日、免許を自主返納した住民の利用も)

【参考リンク】

コミバス市民の会・菊名おでかけバスの公式サイト(運行ルートと時刻表も)

菊名みんなのひろば(菊名駅西口=錦が丘)の公式サイト(菊名おでかけバスの乗場)

11月21日(日)開催「秋のミニらくらく市2021」(港北図書館前広場)のFacebookページ(「菊名おでかけバス」もブース出店)