【法人サポーター会員による提供記事です】夫(妻)に先立たれた場合、どうすればその家に住み続けられるのでしょうか。
約40年ぶりに見直しが行われている「相続法」(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)の改正が、昨年(2019年1月)から段階的に行われています。
そうした中、来たる(2020年)4月1日から「配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等」が新たに施行されることになりました。
港北区全域など、地域に密着し法務に関する業務を行い、「行政書士・海事代理士加賀雅典法務事務所」(日吉本町5)を営む行政書士の加賀雅典さんが、今回の法改正についてアドバイス。
東急東横線・目黒線の日吉駅から徒歩約5分の日吉中央通り沿いにある日吉本町東町会会館(日吉本町1)で、月2回行う「無料法務相談会」(13時30分から16時まで、予約不要)でも、「ぜひ早めに相談してもらえたら」と、新しい相続法に合わせた親族間での話し合いの機会を、少しでも早く持ってもらいたいと加賀さんは語ります。
現行法では、残された配偶者の生活費がわずかな例も
一つの事例として、夫、妻、そして子がいる場合、夫(妻)が所有する建物(2000万円)と預貯金(3000万円)の遺産(合計5000万円)があった場合、所有者が亡くなった後に、遺された妻(夫)と子がそれらを相続することになります。
これまでの相続法では、相続する側の妻(夫)は遺産(5000万円)の2分の1にあたる合計2500万円を相続できますが、その家に住み続けることを必要とする場合は、自宅の2000万円と、残る500万円のみを預貯金で受け取ることになります。
子が残る預貯金2500万円を相続するため、妻(夫)には、預貯金がわずかしか手に入らないので、「住む場所はあるが、生活費が不足」しかねない状況となっていました。
さらに、遺された妻(夫)の死後、子がそれらを最終的に相続することになると、その時点でも新たに相続税が発生するなど、相続が2段階となります。
そのため、二重に税金や手続きが必要となるといった金銭面でのロスや、手続きの不便さも指摘されていました。
新法で得られる配偶者の「居住権」、その他財産も取得へ
4月1日から施行される改正法では、遺された妻(夫)が、“住み慣れた家に住み続けることができる”ことを権利としたことが最大の特色となっています。
「配偶者居住権」は、自宅に“住み続けることができる”権利。そのため、「完全な所有権」とは異なり、人に売ったり、自由に貸したりすることができない分、評価額を低く抑えることができるとの考え方から、価格を低く設定。
このため、配偶者はこれまで住んでいた自宅に住み続けながら、預貯金など他の財産もより多く取得できるようになり、配偶者のその後の生活の安定を図ることができることに。
上記の事例で考えると、遺産(5000万円)のうち、建物(2000万円)を半分に分割し、遺された妻(夫)に、新たに「配偶者居住権」として1000万円、子は、負担付きの所有権として1000万円として相続すると設定。
妻(夫)は預貯金も1500万円を確保できることになり(子の預貯金相続も1500万円)、配偶者は“これまでと同じ”自宅での居住を継続しながら、他の財産も取得できることになるのです。
この「配偶者居住権」の存続期間は原則、「終身」となっており、もし建物に居住エリア以外のテナントなどがあったとしても、全てが権利の対象となるといいます。
「配偶者居住権」の留意点など
しかし、この「配偶者居住権」は、自動的に得られるものではありません。
まずは遺産分割について話し合い、「遺産分割協議書」を作成し、法務局への登記申請を行うか、建物の名義人である夫(妻)が遺言書を作成するといった方法により、権利を取得するための手続きを行うことが必要です。
また、建物は、子の側も「負担付きの所有権」として相続し、配偶者自身の死後は、完全に子が所有権を得ることになることから、言わば、「人の家に住んでいる」状態となるため、「善良な管理者の注意義務」をもって、丁寧かつ注意して居住する義務が発生することになります。
さらに、子が第三者に建物を譲渡したい場合でも、「配偶者居住権」が設定されていれば、家を明け渡す必要がありません。
そのため、子の側からすれば「なかなか不動産を売却できない」事態に陥ることや、家族間での折り合いが悪くなった際に、同居し続けることでの「禍根」が残ってしまうおそれも。
なお、この「配偶者居住権」には、財産としての価値もあるため、取得時に相続税の課税対象となることにも注意が必要です。
「配偶者短期居住権」で短期的な居住も保障へ
また、これまでは、相続開始時に夫(妻)の建物に妻(夫)が無償で住んでいたケースで、第三者に建物が遺贈されてしまった場合などに、それまで住んでいた建物をすぐに出なければならない事態も発生していました。
そのため、4月1日施行の新しい相続法では、建物が遺産分割の対象となるときは,その帰属が確定する日までの間、また第三者に遺贈された場合や,妻(夫)が相続放棄をした場合などであっても、いずれも最低6カ月間の居住が保障されることになりました。
認められる権利は建物の居住する部分のみになるといった制約もありますが、長期的な「配偶者居住権」を得られない場合でも、この「配偶者短期居住権」は認められることになります。
超少子高齢化の進展によって、社会経済の情勢も変化してきたことから、「残された配偶者」の生活に配慮する目的で新設されたこれらの権利により、「新たな選択肢が増えたことになります」と加賀さん。
今回の法改正のメリットを活かせるのかという点においても、より早めの相続への備えや対策を講じることが求められることになりそうです。
※見出し横の写真は法務省発行のパンフレット(法務省のサイト)より使用
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・“お役所仕事”や相談先不明の困り事も日吉の加賀さんが「行政相談」でバックアップ(横浜日吉新聞、2017年9月21日)※ぎ総務大臣より委嘱を受けた行政相談委員としても活躍している
・慶大時代から日吉に住んで22年、行政書士・加賀さんが築いた地域との信頼感(横浜日吉新聞、2016年9月14日)※加賀さんは地元・慶應義塾大学卒業
【参考リンク】
・無料相談会のご案内(同事務所のサイト)※日吉本町東町会会館での無料相談会は、来月(2020年)3月9日(月)、3月19日(木)に開催予定
・民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)(法務省のサイト)
・相続に関するルールが 大きく変わります(法務省)[PDFファイル]
(法人サポーター会員:行政書士・海事代理士加賀雅典法務事務所 提供)