なぜ、世界最大級の清掃機器メーカーが「新横浜」を選んだのでしょうか。世界65ヵ国に現地法人を置き、清掃機器メーカーとしては世界でトップクラスのシェアを誇るといわれるドイツ発祥の企業・ケルヒャージャパン株式会社(佐藤八郎代表取締役社長)が、今年(2017年)夏に東北・宮城県(黒川郡大和町)から新横浜エリア(大豆戸町)に本社を移転しました。
落ち着いた黒そして灰色が基調となった外観のビルに、企業カラーの黄色のラインをポイントとして配し映える「Kärcher」の文字(ロゴは大文字)。環状2号沿い・太尾新道入口交差点近くに出現した新しいビルは、今年8月から営業開始。翌9月22日には移転記念の内覧会および経営戦略発表会が盛大に開催され、建物入口付近に飾られたバルーンや胡蝶蘭(こちょうらん)の華々しさもしばらく垣間見られました。
この11月で本社移転から3カ月が経過。新横浜駅から徒歩約10分程度という場所は、全国各地との新幹線でのアクセスも良好。
また今年3月に開業した「横浜環状北線(通称:きたせん)」により、羽田空港への車での所用時間も約25分(同社資料)と、日本、そして世界からのアクセスも“抜群”になったともいえる、独ケルヒャーの日本(法人)本社。
今から29年前の1988年に世界18番目の現地法人として日本法人を設立。2011年には売上高100億円達成、そして2016年には同160億円を達成し、まさに「飛ぶ鳥を落とす」かのごとくに急成長を続けている同社がなぜ「新横浜」にやってきたのか。
本社ビルには、オフィス部門としての役割のほか、同社商品の“全ラインナップ”を紹介可能というショールーム「ケルヒャーセンター横浜」や、各種床材や一般住宅の再現スペースで製品体験もできるという「ケルヒャーアカデミー」なども設置しています。
今後、地域の法人・個人ともかかわる可能性を秘めたセミナールームなどのスペースも設置されている同本社ビルをこのほど訪問。移転の理由や、これからの日本での販売戦略、そしてビル内に設置された各施設の魅力について詳しく話を聞きました。
世界ブランド「ケルヒャー」はドイツ生まれ。社名は創業者氏名から

ケルヒャーのサイトでは、1935年の創業からの同社の歩みを知ることができる。社名は創業者のアルフレッド・ケルヒャーの氏名から(日本法人のサイト~社史・沿革のページより)
ドイツで1935年に創業したケルヒャーの社名は、創業者のアルフレッド・ケルヒャー(1901-1959)の氏名が由来。1950年にはヨーロッパで最初の温水高圧洗浄機の開発に成功したことが原点と言われており、経営を継いだアルフレッドの妻・イレーネが1974年頃の戦後最大の不況時に「高圧洗浄機」事業を選択し、業務用分野での清掃機器専業メーカーとしての地位を確立。
1984年には家庭用の市場でも、世界初のポータブル高圧洗浄機を開発することに成功。現在(2017年)では、世界で8000万台以上発売し、「世界のマーケットリーダー」(同社社史)と言われるまでに成長してきたといいます。
そもそも「高圧洗浄機」とは、電気やガソリンエンジンの技術などを用い、高圧の水を噴射する洗浄機のこと。
水に「圧力」をかけて勢いよく吹き付けることができるので、手では落としにくい、こびりついた汚れを落とすのには最適といわれています。
また水を使うので、屋外や水に濡れても良い場所などの清掃に適しているとのこと。
現在では、業務用や家庭用、大型の清掃機器など約3000種類もの清掃機器を同社は有しているとのことで、特に工場内や大型機械、大小ビルディングや屋内外の店舗スペースなどといった大掛かり、かつ特殊な洗浄を手掛けるシーンにも大きな強みを発揮しているといいます。
「世界規模」の歴史資産や観光地での洗浄も多く手掛けていることで知られ、1985年から「クリーニング・プロジェクト」として、アメリカの「自由の女神」像やドイツの「ブランデンブルグ門」、ヴァチカン市国の「サンピエトロ広場」や日本・広島の「平和記念公園」、東京「日本橋」といった歴史的建造物や彫像などの洗浄・再生を行うことでの社会貢献も試みています。
「新横浜」に見る職場環境と交通網発達の“優位性”が移転の決め手
では、なぜ「世界的企業」のケルヒャーが、新横浜(大豆戸町)の地を選んだのか。「それは、立地の良さと、職場を取り巻く空間があるから。東京の都心とは異なる郊外の都市・新横浜ならではの“穏やかさ”と、“スペース”があるからです」と、同社マーケティング部の朝喜謙二部長。
洗浄機のテストやデモンストレーションにも場所が必要で、特に大型の機器も扱う同社にとって、高い賃料で手狭になる東京などの都心部は「適さない場所」。
さらに、「ドイツ本社との連携をより深め、より多く日本の皆様にもケルヒャーの高圧洗浄機をご利用いただきたいとの想いから、より交通至便で、全国どこからでもお越しいただきやすいこの地を選びました」と、朝喜部長は、ビジネスを行う上での“新横浜”という場所の優位性に着目したことが最大の理由と説明します。
実際に、全国各地から商談などで訪れる来客が増えているとのこと。
「床洗浄などを実機で体験いただける2階の『ケルヒャーアカデミー』や、家庭用商品を網羅しつつも手に取ってご覧いただくこともできる1階のショールーム『ケルヒャーセンター』も大変好評をいただいています。一般のホームセンターや家電量販店では展示されていない全商品の相談も受け付けています。特に『ケルヒャーセンター』は、平日の9時から18時まで(日祝祭日除く)は事前予約不要で利用可能ですので、ぜひ地域の皆様にもお気軽にお越しいただきたいと思っています」と、朝喜さんは、多く近隣の人々の来訪も呼び掛けています。
なお、「ケルヒャーアカデミー」には、100名収容のセミナールームも併設されており、取引先向けのセミナーや、一般ユーザー向けの勉強会、清掃にまつわるトレンド発信も将来的に試みていきたいとのこと。
同社では、2020年の売上目標を日本国内で300億円と設定しており、「これからも、清掃メーカーのリーディング・カンパニーとして、これからの日本に到来する少子高齢化社会や、都市部に集中する過密住宅、ライフスタイルの変化などの課題に応えていきたいと思っています」(朝喜部長)と、日本の社会問題にも対峙(たいじ)することも目標にしているといいます。
ドイツ本社との積極的な連携も強化しながら、いずれは日本のニーズを反映できるような製品開発“JAPAN PROJECT(ジャパン・プロジェクト)”をスタートするというプランも。
今は、まだ日本国内では検査・検品以外の商品開発・工場部門は置いていないとのことですが、「これからも、世界ナンバーワンの清掃機器メーカーとしてのポジション、日本でも、様々な業種すべての分野でナンバーワンを目指す」(同社資料)とする同社の動向が、新横浜や大豆戸町ばかりでなく、港北区や横浜市、県や国全体に与える影響にも、今後より多くの注目が集まりそうです。
【関連記事】
・<環状2号沿い・大豆戸町>ルームズ大正堂近くで建設中のビル、独ケルヒャー本社に(2016年11月15日)
【参考リンク】
・ケルヒャージャパン社史・沿革(同社公式サイト)
・ケルヒャージャパン営業拠点(同社公式サイト)※2006年には同じ港北区内の新羽町に横浜営業所が開設、現在こちらも引き続き稼働しているとのこと