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20170401column_trnet_logo01_500今、地球温暖化や異常気象がもたらす自然災害の恐れが地域社会を不安に陥(おとしい)れています。かつて「暴れ川」とも言われ、幾度も氾濫し、洪水を引き起こしてきた鶴見川については、住民の転出入が横浜一多いと言われる港北区の周辺において、あまり広く知られているとは言えません。

鶴見川の流域を活動の場とし、「流域思考」川の流域単位で解決を図っていこうという考え方)で自然保護や川と親しむ活動を行っているNPO法人「鶴見川流域ネットワーキング」(TRネット=本部:綱島西)の創設者の一人で、慶應義塾大学・名誉教授の岸由二(ゆうじ)さんが、鶴見川の流域についての考え方や想いを執筆する「コラム流域思考」を、今月から3回(4~6月まで)にわたり連載します。

コラム流域思考【連載第1回】綱島の川辺は鶴見川流域の宝

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ある日の綱島の鶴見川川辺

綱島の鶴見川みどりの川辺に春がきました。

イトーヨーカドー脇の道をまっすぐ進み、土手に上れば、目前に、幅1キロの広々とした緑の川辺が広がります。視野の左の高水敷では、港北区・町内会・NPOの連携で維持されているナノハナ(菜の花)の列が、今、満開。

日だまりの花群れには、越冬からしばし目覚めてしまったチョウ(キタテハ)の姿。平日の午前が晴天なら、ナノハナの周囲には、50人はいるでしょうか、時にはさらに多数の幼稚園、保育園児たちが、歓声をあげて走りまわる姿があるはずです。

かつて鶴見川といえば、洪水・汚染・ごみの川、というのが地域の常識でした。まだ、当時のままの偏見で鶴見川を語る世論もあるのですが、1980年以降の河川管理、下水道行政の奮闘や、川を大切にする多彩な市民活動の活性化で、現実の鶴見川はもうとうの昔に都市の清流のような流れになり、子どもたちや、生きものたちの賑わいを支えているのです。土手をこえて、散歩に出れば、だれにだって一目でわかる現実です。

鶴見川を遡上してきたアユ

鶴見川を遡上してきたアユ

綱島だけではありません。綱島川辺から9キロ下流は、鶴見区生麦の河口の干潟。貝殻の白い浜では、ハゼたちの稚魚が遡上(そじょう=川をさかのぼること)の準備をおえ、上げ潮の流れにのってもう上流にむかいはじめたはず。

4キロ上流は、開通したばかりの高速北線出口の対岸に、日産スタジアムを擁する広大な多目的遊水地「新横浜公園」の広がる新横浜・小机地域。かなたに真っ白な富士を望む亀甲(かめのこ)橋直下の岩場には、もう若アユが遡上してきたと、昨日、NPOスタッフから報告があったばかり。

そして綱島から30キロ上手、八王子市・多摩市に接する東京都町田市上小山田の鶴見川最源流の雑木林にかこまれた水源の谷では、アブラハヤたちが清流の瀬に広がり始め、ウグイスがさえずり、春蘭が咲き、早咲きの山桜もほころびはじめたはず。

綱島の鶴見川辺は子どもたちの憩いの場に

綱島の鶴見川辺は子どもたちの憩いの場に

私たちの暮らしの足元、綱島の鶴見川川辺は、そんな鶴見川本流の、河口から9.5キロに位置する、水系最大の緑の水辺広場。街と川が自由自在に交流できる流域最大の<まち・かわ>拠点なのですね。

ナノハナの季節に続き、4月になればノイバラの群落が一斉に花開き、ハナウドの純白の花群が咲き誇り、地元NPO法人(NPO法人鶴見川流域ネットワーキング:npoTRネット)と河川行政(国土交通省)とこれを応援する企業(株式会社トヨタマーケティングジャパンほか)が、10年の歳月をかけて総力で自然回復を実現した早淵川合流点の寄り洲に、アシ、オギ、ガマ大群落の緑の新芽が萌えあります。

綱島・鶴見川川辺の1キロは、綱島のほこり、流域の宝。流域のこどもたちが賑やかに、楽しく、地球人に育ってゆく希望の水辺。春の快晴の日は、訪ね、憩い、もし健脚(けんきゃく)のご自覚あれば、ぜひ、下流へ、上流へ、鶴見川流域再発見の旅にでざるべからず。

<執筆者>

TRネット・岸由二(きしゆうじ)さん岸由二(きし ゆうじ):鶴見川流域の鶴見区・港北区の水辺で遊び育つ。神奈川県立鶴見高校・横浜市立大学・東京都立大学大学院、慶應義塾大学助手、助教授をへて、1991 年から同教授。2013年定年をむかえ慶應義塾大学名誉教授(理学博士・生態学専攻)。地域では、鶴見川流域、三浦半島南端部・小網代(こあじろ・三浦市)などを含む多摩三浦丘陵等において、<流域思考>に基づく防災・環境保全型の都市再生にかかわる理論・実践をすすめている。国土交通省河川分科会委員、鶴見川流域水委員会委員。

(提供:NPO法人鶴見川流域ネットワーキング=TRネット)

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【参考リンク】

鶴見川流域ネットワーキング(TRネット)公式サイト