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グルメレポート 新横浜・菊名・大倉山【グルメレポート第15回:2017年3月27日「新横浜編7」】今月(2017年3月)、新横浜ラーメン博物館に相次いでオープンしたのは北海道利尻島と米国ニューヨークで人気を集める著名店。郷土ラーメンの一大集積地として、日本独自の食文化を四半世紀近くにわたって発信し続けてきた「ラー博」の現在を象徴するかのような2店を味わい、海を越えて進化するラーメン文化の奥深さと広がりを感じさせられました。

1994年にオープンした新横浜ラーメン博物館

1994年3月にオープンした「新横浜ラーメン博物館」

今ではラーメン博物館が新横浜に存在していることを知らない人が少ないほど、当たり前の観光スポットとなっていますが、オープンした1994年は、新横浜駅に東海道新幹線「のぞみ」がほんの一部停車するだけ。横浜アリーナはすでに完成していたものの、日産スタジアムも現在の高層駅ビルも存在していない時代でした。

地元の篠原町で生まれ育った岩岡洋志さんが「新横浜をコンクリートジャングルで無機質なイメージの街としてとらえていた私は、この場所に地元商店街の賑わいや生業の活気といった、生活感あふれる個性的な街並み、いわゆる『界隈性が高い』場所を作りたかった」(2010年「ラーメンがなくなる日」主婦の友新書)との思いを発端に、アイデアを絞って作り上げたのがラーメン博物館です。

現在は日々人があふれる新横浜の街も1990年代は土日になるとゴーストタウンのようになったという

現在は日々人があふれる新横浜の街も1990年代は土日になるとゴーストタウンのようになったという

今の新横浜からは想像が付きづらいのですが、当時は「土日には人がいなくなってゴーストタウンと化して、野犬が出たほど」(同書)だったといい、企業が休みとなる週末にもにぎわいをもたらす施設が必要だったといえます。

新横浜を代表する観光地に育った同館ですが、最初は著名店への出店交渉に苦労の連続。「どこの馬の骨かわからないやつが経営するわけのわからない箱物に、大事な支店を出すもんかい」(同書)といった言葉さえ浴びせられるなかで、「これだ!」と思った店にはどれだけ遠くても現地へ通い、何年もかけて出店を実現させてきたといいます。

日本各地に存在する「郷土ラーメン」(ラーメン博物館の展示より)

日本各地に存在する「郷土ラーメン」(ラーメン博物館の展示より)

そうして創り上げた郷土ラーメンの集積地。近年はラーメン文化を根付かせることにも注力しており、「そば」が主流だった地に生み出した「沖縄ラーメン」もそうですし、海外からの観光客が年々増えているという同館が海外の著名ラーメン店主に与えた影響は計り知れないことでしょう。

今月オープンした2店は、利尻島とニューヨークというあまりに遠い地からの出店。同館の岩岡館長が2010年の著書「ラーメンがなくなる日」で危機感をあらわにしたように、2017年の今、日本各地で味が均質化して郷土ラーメンが消えつつあることの現れなのかもしれません。全国どこでも飛行機や新幹線で数時間のうちに往来できる時代ですから、地域性が薄くなるのは仕方がないともいえます。

春休みと新店舗ということで平日でも両店には長い行列が見られる

春休みと新店舗ということで平日でも両店には長い行列が見られる(左が利尻らーめん味楽、右がYUJI RAMEN)

それでも、遠くの地で根付きつつある未知の郷土ラーメンを新横浜で味わえるのは、純粋に嬉しいところ。旅行でもなかなか行けないだけに、少し並んででも食したくなります。

3月1日にオープンした「利尻らーめん味楽(みらく)」は、日本の最北端・稚内から船で1時間40分ほど要する“最果ての地”で1日2時間半しか開店しないという訪問難易度が極めて高い店。郷土ラーメンが生まれる素地が満載です。

日本三大昆布と言われる高級な利尻昆布は、地元で採れる名産品。これをふんだんに使ったという「焼き醤油らーめん」(ラーメン博物館では税込900円)は、めったに食せない希少性もあってオープン時には大行列ができたほど。春休み中である現在も食べるまでには少し時間を要しそうです。

香ばしい「焼き醤油らーめん」(税込900円)

香ばしい「焼き醤油らーめん」(税込900円)

醤油の香ばしい香りがたまらなく食欲をそそり、利尻昆布を刻んだとみられる昆布が添えられているのも利尻島のラーメンならでは。

潮風を浴びながら本店で食せば味もさらに格別ですが、ラーメン博物館でも利尻の風景を思い描きながら味わえば、人口5500人ほどの地で生まれた“島ラーメン”の神髄が理解できるはず。宗谷地方の日本海沿いにある天塩(てしお)町から直送した「マスカットサイダー」(税込250円)も貴重なサイドメニューとして味わう価値がありそうです。

マグロのアラと昆布ダシによるスープが新鮮な「ツナコツラーメン」(税込900円)

マグロのアラと昆布ダシによるスープが新鮮な「ツナコツラーメン」(税込900円)

一方、16日に出店した「YUJI RAMEN(ユウジラーメン)」は、ニューヨークといってもオフィスがひしめくマンハッタンではなく、対岸のブルックリン地区で2012年から営業するラーメン店。ボストンなどで魚の卸に長年携わってきた店主の原口雄次さんがアメリカで魚文化を広める一環として、和食店とともにオープンしたといいます。

とんこつラーメン店「元祖名島(なじま)亭」の跡に設けられた店舗は、前の店と異なり、鮮魚店のような香りが漂っています。YUJI RAMENの「ツナコツラーメン」(税込900円)は、豚骨や鶏がらを一切使わず、マグロのアラと昆布ダシのみで白濁させているためです。

豚骨などの動物系素材を使った濃厚なラーメンに慣れてしまっているためか、ツナコツラーメンの優しさを感じさせる深い味わいは新鮮。女性客が目立つのもうなづけます。ゆず胡椒がピリリと存在感を出すスープに絡んだ極細麺を一気に平らげてしまいました。

欧州での日本発のラーメン文化が広がっている(ラーメン博物館の展示より)

欧州での日本発のラーメン文化が広がっている(ラーメン博物館の展示より)

「自由の女神像」が海上に建っているように、ニューヨークが海に囲まれた都市であることを、ツナコツラーメンから思い知らされます。これもまた、郷土ラーメンといえるでしょう。

利尻とニューヨーク、あまりに遠い海を感じることができる個性的な2つの新店舗。近い未来には“世界と離島のラーメン博物館”となっているかもしれない、そんなことを思わされました。

  • 新横浜&周辺エリアのグルメレポートは記者が個人的に訪れているなかで、「ここは!」というお店についての情報を紹介するとともに、個人としての所感を述べていく連載です。バックナンバーはこちら。なお、日吉・綱島・高田エリアの記事は「横浜日吉新聞」をご覧ください。

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ラー博初の“島ラーメン”、3/1(水)に利尻昆布スープの「味楽」がオープン(2017年1月11日)

<ラー博>名島亭の後継、米NYで人気の「ツナコツラーメン」が3/16(木)に上陸(2017年1月26日)

【参考リンク】

日帰り不可能!日本一?行くのが困難な絶品「島ラーメン」(ラーメン博物館)

新店舗「YUJI RAMEN」 3月16日(木)オープン!(ラーメン博物館)

「ラーメンがなくなる日」(岩岡洋志著、グーグルブックス、「書籍のプレビュー」で一部閲覧可能)